桜場コハル作品エロパロスレ・新保管庫

三年後くらい

最終更新:

匿名ユーザー

- view
メンバー限定 登録/ログイン
「『マコちゃん』引退して、もう二年経つんだ
 ある晴れた初夏の日の放課後、校庭の芝生に寝転んだマコトは、懐かしい髪留めを独り眺めていた。
「あれ? マコト。まだこれ持ってたんだ」
 ひょっこりと現れ、覗き込む女子の影。
「よお、トウマ。昨日、部屋の掃除してたら見付けた」
「ふーん。マコトは楽しんでたのか、あれ」
「ちょっとは。いや、結構かな」
 マコトは周りを見回してチアキが居ないのを確かめ、髪留めをさしてみた。
「まだ、マコちゃんできるかな」
 あの頃みたいに笑ってみせる。
「喋らなければな。声変わりで引退したの、忘れたか?」
「ってことは、相変わらず女っぽい顔なのかよ。トホホお~」
「オレも、似たようなもんさ」
 すとんと、トウマが隣りに座る。
「そうでもないよ。けっこう女っぽくなってる」
「こ、こらっ、胸見て言うなよ」
 くちを尖らすトウマ。そしてすぐに笑ってみせた。
「あははっ。オレも、もう男役はちょっと無理かな。背が足りない」
 もう中二。女子はそろそろ背が伸びなくなってくる頃だ。
 体の線も大人の階段を上りつつある。
「背なら高い方じゃない?」
「もう、マコトのが五センチは高いよ。あ~あ、一時はオレのがでっかかったのに」
「ま、いいじゃないか」
「良くないって。もう、藤岡とサッカーもやらなくなっちゃったし」
 藤岡たちが高校に行ってから、一緒にサッカーはしてない。
 カナが言うには、もう一緒に出来るレベルではなくなってしまってるらしい。
「なあトウマ。藤岡のこと、好きだったのか?」
「好き? うーん、好きだったよ。恋とかナントカはおいといて」
「カナとくっついちゃったけどな。悔しいか?」
 トウマは暫く黙っていた後、「……少し」と小さく答えた。

「そういうマコトは、ハルカさんとあんまり会えなくなっちゃったけど、どうよ」
「えー、あー、ハルカさんは大好きだけど、引退する頃は、そのーー」
「やっぱりな。チアキが目的だったんだろ?」
 ニヤニヤしながら、トウマは髪留めつきのマコトを肘でぐりぐりした。
 マコトが「うひゃひゃ、やめろよくすぐったい!」と、笑いながらその手を払う。
「おっ、効いたみたいだな。負けねえぞコノっ!」
 寝そべったマコトに のしかかるようにして、トウマはぐりぐりを続けた。
「うひゃひゃ、あひゃ、氏むっ! やま、やめっ!」
「うらうらうらうらぁっ……うっ」
 気がつくと、目の前にお互いの顔。距離十二センチ三ミリで目が合った。
「トウマって、結構かわ……」
「マコトも、喋らなけれ……」
 近づく。
 目を閉じる。
 もうすこし、近づく。
 残り五センチで、止まる二人。
「なーんか、違うよね」
 目を開くマコト。トウマも。
 そして二人は体を起こし、少し離れた。
「ごめん、やっぱ俺、チアキが好きみたいだ」
「だから、分かってるって。今のは事故だよ、事故。忘れようぜ」
 視線を外す二人。複雑に気持ちが揺れる。
「オレも、他に好きな人なら……」
「藤岡?」
「いや、それは……カナがいるし」
「なんだ、らしくないな。がんばれよ」
 マコトが先に立ち、右手を差し伸べる。
 その手を掴み、「はっ」とトウマが立ち上がる。
「それじゃあマコト、久々にチアキのとこでも行くか?」
 ちょっと高い位置の髪留めが、ぐいっと引っ張られる。
「いてて、だめだって。マコトは入れないんだ。もう、マコちゃんじゃないしね」
「しょうがねえなあ。おまえも~~、頑張れっ!」
 ぶちっ!
 引き抜かれる髪留め。
 トウマの足下では、再び転がったマコトが「いででっ!」と、じたばたしていた。


  • t -- 名無しさん (2013-03-15 09:56:00)
名前:
コメント:


目安箱バナー