洞爺湖から遠く離れて“福岡・裏サミット”
ドバイ投資会社CEO「魅力的な日本企業ない」
北海道・洞爺湖で主要国首脳会議(サミット)が開幕した7月7日、博多祇園山笠で賑わう福岡では“裏サミット”ともいうべきイベントが開催された。今年で2回目を迎えたアジア・イノベーション・イニシアチブ(AII)の年次総会。仕掛け人はソニーの元CEO(最高経営責任者)で、コンサルティング会社クオンタムリープの代表を務める出井伸之氏だ。日本のみならずアジアの経営者や市場関係者が300人超が集まり、世界経済におけるアジア、そして日本の役割につ いて熱い議論を交わした。
出井人脈は健在。そうそうたる面々が集まった。金融界からは黒田東彦アジア開発銀行総裁、斉藤惇・東京証券取引所社長、小手川大助・国際通貨基金 (IMF)理事。海外からは台湾のパソコン最大手エイサーの創業者、スタン・シー氏、太陽電池で世界3位のサンテックパワーのシー・ジェンロン会長、出井 氏が社外取締役を務める中国の検索サイト最大手、百度のロビン・リーCEOらだ。
目玉は初来日となったドバイ・インターナショナル・キャピタル(DIC)のサミール・アル・アンサーリ会長兼CEO。DICといえば、昨年ソニー株を取得したことで注目を浴びたドバイの政府系ファンド(SWF)。出井氏がDICのファンドのアドバイザーを務めていることから、来日が実現したのだが、福岡 に滞在した数日間、セッションの合間に日本企業から面会のオファーが殺到した。しかし残念ながら、アンサーリ氏の日本への関心は高まっていなかったよう だ。会場での議論の様子を交えながら、アンサーリ氏の投資哲学を報告する。
オープニングセッションでは、世界経済の見通しとアジアの役割について議論が交わされた
GCC、インド、中国に注力
DICは10億ドルで2004年に設立して以来、これまでに120億ドルを超える運用資産にまで増やした。どういった資産、地域へ投資しているのか。
アンサーリ 「プライベートエクイティ(未上場株)に70億ドル、上場株に30億ドル、20億ドルはエ マージング・マーケット(新興国市場)だ。特にGCC(Gulf Corporation Council=湾岸協力会議)、インド、中国を含むエマージングマーケットに力を入れている。GCCには案件がたくさんある。インドは今、株価は下がっているが、チャンスはあると思う。中国も同じだ。現地のパートナーと組んで、上場前の中小企業への投資を進めている」
この日、「新しいシルクロード」というテーマで講演したアンサーリ氏。そのルートはGCCから中国まで。石油は西から東に、製品は東から西に流 れ、新シルクロードは富を創出するネットワークとなると強調した。しかし新シルクロードの東は中国まで。しかしこの構想には日本は含まれていない。日本企業はどのような役割を果たせるのか。
アンサーリ 「私も日本企業が何をすべきか、明確にはわからない。しかし世界の流れに置いていかれないためには、日本企業にとって中国との関係が大事ではないか。中国企業が成長する利潤を、日本企業としてどうやって享受するかを考えるべきだ」
昨年ソニー株を買ったDICだが、アンサーリ氏はその理由を「グローバル企業であり、ブランド力があり、経営力があり、変わるための戦略を持って いるからだ」と即座に答えた。しかし「今ソニー以外で買える日本企業は見当たらない」と言い切る。トヨタ自動車やホンダといった自動車、東芝が力を入れる 原子力発電をどのように見ているか。
「東芝には期待できる」
DICのアンサーリ会長兼CEO
アンサーリ 「最初に私がこれらの業界の専門家ではない。ただ自動車については今の環境は厳しい。車の購買意欲が低下 し、原材料価格は上昇し、原油高で燃料費も上昇する。もちろん我々はトヨタ自動車をはじめ、上位企業を常にモニターしている。今できることは分析して、6カ月先なのか1年先なのか、わからないが、投資するタイミングが来るのを待つだけだ」
「原子力発電だが、これはとても重要な成長セクターだ。昨日も投資チームと議論をしたばかりだ。我々は東芝はいい会社だし、良い経営陣がいる。将来、ソニーと同じような変化が起きることを期待できる。昨日セッションの合間でも会ったが、すでに数回会合を持った。ただ原子力発電は欧米を含め競争が激 しい」
DICは政府系ファンド(SWF)ではない――。アンサーリ氏は今回の会合で何度も繰り返していた。「『あなたはSWFだ』と言われると何か悪口 を言われるようだった」と神経質になっているのは、世界的なSWFの存在感の高まりを先進国当局が警戒し始めたからだろう。しかしSWFの長期的な視野に 立つ投資を可能とするのは資金がオイルマネーといった余剰資金であり、投資家の存在がない点が大きい。DICがSWFでなく普通の投資ファンドであるなら ば、この株価が下落局面で、長期的な投資という立場を貫くことができるのだろうか。
アンサーリ 「DICがSWFではないと言い切れるのは、それが政府のコントロールにないからだ。持ち株 会社ドバイ・ホールディングスの資産も運用しているが、現地を中心とした富裕層らから集めた資金も併せて運用している。運用方針が政府から干渉されること はなく、独立性も担保されている。我々は長期的に投資をすることが可能だし、短期的な投資をすることもできるという、独特な立場にある」
アクティビストにはならない
日本企業にとってSWFは貴重な資金の出し手であるが、一方で、アクティビスト(短期利益を求めて物言う株主)化を警戒する経営者も少なくない。DICが、アクティビストとなり投資先の上場企業の経営に対して積極的に関与することはあるのだろうか。
アンサーリ 「上場株について言えば、経営に深く関与するとか、取締役を送り込むことはやっていない。なぜならDICは投資するまでに多くの時間を費やし分析をするので、その必要はないからだ。我々は経営陣と友好的な関係にある。万が一、我々の考え方と違う 方向に進もうとしていれば、まずは月1回のペースで投資先の経営陣と会った時に話し合い、それでも解決しない場合は、最後は売却することになるだろう」
9日に福岡を発ったアンサーリ氏が次に向かったのは中国。今回、彼が東京に立ち寄ることはなかった。世界中に網を張り巡らせる彼の目に、日本の企業が魅力的に映る日は、果たしてやってくるのだろうか。
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