日時:2013年9月9日(月)10-12時
場所:Crows Nest Centre
協賛: NSW Northern Sydney Local Health District
Multicultural Community Advisory Service
65歳以上の方及びそのご家族の方を対象としたサポート機関
スピーカー: Tim Tunbrige(Solicitor;TARS)
NPO機関であるcommunity legal center勤務。
専門家を含めたスタッフが高齢者ケアのサポートにあたっている。
60歳以上の高齢者を中心に対象に法的サポートの提供。
電話での法律相談対応を行っている。
<事前質問に対する回答>
1、もし、自分の子供たちの誰かに精神的疾患があったり、なんらかの病気やハンディで自身の面倒がみれない場合、その両親として自分たちの死後も、その子の物質的/心身的なケアをきちんと手配するためには、どのような手順を踏めばよいでしょうか?
—主に下記2つの対応が考えられる。
1、 遺言信託(testamentary rust)と言われる、遺言において、誰か受託者(trustee)を指名し財産をその人に代わりに管理してもらう信託(trust)を死ぬ前に手配する。オーストラリアには、政府が提供する特別身障者信託special disability
trustというものもあり、また、ハンディを持っている等の特別なケースにおいては、特別年金の手配をする必要性もあるかもしれない。
※身障者の人たちへのサービスについては、パンフレット「Department of
Families, Community Services and Indigenous Affairs(Australian Government)」
参照
2、ハンディを持っている本人が法定代理人を指名。
財産を管理するのに法定代理人を指名することができ、この制度は非常に強力な効力を持っている。自分の希望に沿って、法定代理人に財産の管理を委任できる。10年前、政府がシステムに変更があり、その法定代理人が能力を失った場合、永久的代理人(enduringpower of
attorney)。本人の意思決定能力がなくなった時、代理人の権限は保持される。
※パンフレット「Who will decide for you if you can't decide for yourself?」参照
(派生質問)
(1)法定代理人のチェックをするシステムはあるのか?
代理人が正しく機能するために、その代理人は法律家によって認可されなければならないとされている。法律家は、その代理人が代理人として適切な管理を行うことができる人であると保証する必要がある。法定代理人になるのに、特別な登録手続き等は必要ないが、例外として、不動産管理においては、法定代理人は土地権利登録(land title’s office)にて権利を登録する必要が生じる。
後見人(guardianship)と法定代理人の違いは、後見人は財産管理のみではなく、意思決定に関与する点である。そして、本人の意思決定能力がある限り、変更が可能。意思決定能力を失ってしまった場合に、本人に代わって、医療治療等への同意、居住環境(老人ホーム、介護施設等)の選択などを行う。
意思決定能力がないと診断されて以降の、後見人の変更、解任はできない。
後見人用裁判所において、裁判所の関与の元、後見人を選任する。
例えば、信用する子供2人に、今のうちに話をして、彼らの責任能力に満足した場合、委任状にて、本人が意思決定能力を失った時に、または医者がそのように認定した場合のみ効力を発揮する形で運用できる。
なお、子供が複数いる場合は、共同で後見人の責務にあたるのか、独立して行うのか指定することができる。子供がいない、信用できる親族がいない場合は、信託会社に法定代理人を頼むことができる。プライベート信託会社またはNSWの政府信託機関が選択しとしてある。費用は発生するが、経済的、将来的には面倒を見てもらうには、価値のある投資だと思われる。
(2)子供が信頼できない場合など、誰に頼めばいいのか?
面倒を見てもらう人としては、信頼できる弁護士、税理士等が適任であると考えるが、財産をコントロールするに重要な以下の3つの条件を兼ね備えている信託会社が、最適なのではないかと思う。
財産をコントロールするに重要な3つのポイント
受託者の有効性・・・財産なくなる最後まできちんと仕事を行ってもらえる。
受託者の能力の確実性・・・商売など利益重視で運用がなされてはならない。
受託者の独立性・・・本人の希望と異なる運用がされてはならない。
2、日本での遺産、不動産についての対応はどうしたらいいか?
—亡くなった時、NSWに住居していた場合、オーストラリア法において、オーストラリアで死亡=永住権を持っていると解釈され、故人の国籍には関係なく、オーストラリアの法律に則って、相続が行われる。
相続の対象となるものとしては、以下が該当する。
・株
・賃貸借契約
・オーストラリアの動産・・・NSW法が適応
・オーストラリアの不動産・・・同上
・日本の動産(movable property)・・・日本の法律で別途定めがない限り、日本法が適応
・日本の不動産(immovable property)・・・日本の法律に別途定めがない限り、日本法が適応
※レジメ「Principals of Private International」参照
3、両親がオーストラリアに居住、遺言はあるが、亡くなった場合、どのようにその遺言を執行すれば良いのか?また、日本に財産がある場合は、手続きはどのようになるのか?
—オーストラリア弁護士に相談をし、最高裁判所へ遺言の検認を依頼する必要がある。そして、遺言を持っている人が、遺言の執行人となり、相続財産を調査する責任がある。争いがない場合は、借金も含め、遺言にある通りに遺産分割をすることになる。
日本の財産については、下記のとおり。
日本の不動産・・・日本の弁護士へ相談
日本の動産・・・日本の弁護士へ相談。日本法により、日本の裁判所がNSW法を受け入れるかどうかによる。
(派生質問)
(1)オーストラリアに居住している人が、日本にいる人を法定代理人に指名できるか。
できるが、財産の調査等手続き上、機能的ではない。
4、日本に財産を持っていますが、自分の死後、それを兄と弟に残したいと思っています。私にはこちらに、娘がおりますが、その子に渡すつもりはありません。現在、この意志を明確に示している遺言はありませんが、どのようにして自分が望むように財産の相続を手配したらよいでしょうか?
■日本の不動産について
娘の権利は日本法による
■オーストラリアの不動産について
娘の相続財産に対する請求権を剥奪することはできないので、事前に弁護士に遺言を作る際に、なぜ娘には財産をあげたくないかを別紙で説明するべきである。そうすれば、娘からの請求があった場合でも、裁判所が適正性を判断して、遺言とおりに相続をできるかもしれない。
(派生質問)
(1)上記の場合は、遺言は優先されるのか?
請求を行う人は請求する権利があることを証明するため、一定の書類の提出が義務づけられている。被相続人との関係性は悪かったが、配偶者、子供等、法定相続人が経済的な必要性に基づいて、請求を行った場合、道徳的な義務(moral duty)により、裁判所は遺言を無効とする可能性がある。
(2)自筆遺言と公証遺言はどちらが良いのか?
遺言作成キットが出回っているが、リスクが大きいので、公証を推奨する。
(3)子供がいない場合で、日本の親戚に相続したいがどうしたらよいか?
遺言において指定することにより、受託者に、日本の親戚をきちんと見つけて、受託者が遺産を日本にいる親戚に渡すように手配しておく。
慈善基金への遺産の寄付等も、しっかりと遺言で指名していなければできない。
(4)生前贈与をした方が良いのか?
後の財産請求を防ぐために、生前に贈与を行う人もいる。
死亡前、5年以内に行われた生前贈与は、裁判所によって遺産財産の一部とみなされる場合がある。
また、奥さん、お子さんとの共同名義の財産等、被相続人の純粋な財産はなかった場合でも、特に、面倒を長い間見ていた等特別な事情がある場合、その財産の半分は相続対象とみなされる場合もある。
5、遺産を残したい相手(姪・甥)が日本在住の場合、オーストラリアで残した遺言だけでよいのか、日豪それぞれに遺言を残しておく必要があるのか?
ーNSWに住んでおり、財産はすべてオーストラリアにある場合、遺言はNSWのもののみで良い。日本にも財産がある場合は、日本の遺書も必要となる。これについては、NSWの公共紹介サービスlaw societyがあるので、日本語及び日本法対応可能な弁護士を紹介してもらうことも可能である。
6、主人が先月脳梗塞で倒れ今後又再発の可能性があるといわれましたので、委任状などの必要性を教えていただきたいです。
■ご主人に意思決定能力がある場合
脳卒中が再発して、能力を失った場合に備え、弁護士に永続的法定代理人について相談し、本人から代理人に委任を行う。
TARSでは、弁護士の手配は行っていないが、Counsel of agingという団体(電話番号: 9286-3860)では、弁護士が数名おり、法定代理人選任のサポートも行っている。費用的にもリーズナブルで、legal pathwayというプログラムにて、予算にあった弁護士を紹介してもらえる。また、20分間の無料通訳サービス(電話番号:131-450)も提供している。
■ご主人に意思決定能力がない場合
法定代理人の選任ができないため、後見人審判所(guardianship tribunal)へ申し込みを行う。
主人の意思決定能力の不足に関する医学的証拠の提出が必要。
裁判所の方で、経済的管理に適切な人を選任してくれる。
費用は300$以下くらい。
※連絡先はパンフレット「Who will decide for you if you can't decide for yourself?」の裏面参照
7、約8年前に離婚しました。元夫とのあいだに、今年14歳になる息子がいる。
もし私が、不慮の死を遂げた場合、私の財産を息子に遺したいと考えている。オーストラリアに他の親族はいない。息子が成人(18歳)した時に、本人が受け取れるようにしたいが、その場合の遺言の作り方、弁護士さんに頼んだ場合の金額はいくらになるか。
ー弁護士に相談し、息子が1人なので、唯一の受益者となるが、未成年であるため、誰か受託者を指名する。受託者は、学費等、当該未成年の利益となることを念頭において遺産を運用しなければならない。当該未成年は遺言の内容により、18歳以降に受益者となる
このような遺言の作成にかかる弁護士費用は、簡単なものであれば、$500以下のことが多い。
Counsel of agingでも弁護士の紹介可。
8、遺言執行人は夫に実行してもらいたいが、もし彼が事故か何かで不可能になった場合、弁護士に依頼しなければならないのか?もしくは他に友人・知人に依頼できるのか?
ー代わりの人を遺言内で、指定しておくのは良いアイデア。
例えば、遺言に、「Xさんを指名、Xさんがダメな場合、Yさんが執行人になる」と言ったような記載をする。この場合、X、Y共に弁護士である必要はないので、責任を持って執行をできる人に指名。
9、夫が先か自分が先に死亡するかわからない、遺言は別々に方がいいか?
ー2つの別々の遺言を作成することもできるし、1つの共同遺言(mutual wills)を作成することもできる。この場合、共同遺言の内容は同じでなければならない。
意見の相違がある際は、共同遺言ではなく、別々に作成することを勧める。
10、遺言の保管は然るべき弁護士に委託しておくべきか?
ー遺言を適切な安全なところに保管することはとても重要。弁護士または銀行、NSW信託(NSW trustee)、最高裁判所にコピーを記録してもらう等の方法がある。
費用は年間費という形ではなく、最初一回のみの支払う形。
11、去年に日本にいる母が交通事故で急になくなり、父と弟が日本にいる。年齢的にいくと父が私より先に亡くなり、その遺産は私にくる予定だが、弟は精神に問題があり、お金の管理が困難なため、私が必要なときに仕送る形にしたい。が、もし私が死んでしまったら、オーストラリアにいる息子二人に遺産がいくのはよいが、旦那は私の家族に対して理解があり、旦那を通して、日本にいる弟に仕送りや全額を渡すという契約をしたいのだが?
ー父の遺産を相続した場合、弟を遺贈受託者(testamentary trust)とする、遺書を作成することができる。夫を受託者に指名できるが、1人以上の受託者を指名した方が良い。
このケースでは、以下の理由により、夫は受託者として、適任ではないかもしれない、
・弟は日本に居住しているので、オーストラリアにいる夫では弟が何を必要としているのか等の状況がわからないかもしれない。
・弟より、夫が年齢的に先に亡くなるかもしれない。
・夫の意向が、亡妻の意向と異なるかもしれない。例えば、弟が亡くなったら、財産はオーストラリアの2人の息子へ相続されるため、夫は弟になるべく少ないお金を渡し、息子たちにお金を多く残そうとするかもしれない。
従って、あと1、2人は弟の必要性を判断しており、独立性がある人、内部事情に関与していない人、弟のことを一番に考えてあげれる人を受託者にすべき。
<受託者を指名する際に重要な3つのポイント>
・お年寄りを受託者にしない。
・受益者の必要性を把握している人。
・利益相反がない人。
議事録: Yuri Okamura