一 八七二三(にのまえ・はなつみ)

  • 性別:女
  • 胸:普通
  • 学年:2年
  • 所持武器:可憐な花摘むたおやかな指先
  • 出身校:妃芽薗 評価点数260
  • 攻撃力:19 防御力:1 体力:6 精神力:3 FS「拈華微笑(ねんげみしょう)」1

特殊能力『明日(あす)ありと思う心の仇桜(あだざくら)』 発動率:76% 成功率:100%

【効果】全無効(自分のみ)
【範囲+対象】自分自身
【時間】1ターン
【時間付属】カウント遅延
【スタイル】カウンター
【消費制約】1度しか使えない
【制限制約】移動した後では使用できない

【カウンター条件】能力発動後に敵を殺す
【カウンター効果の対象】自分自身
【待受範囲】同マス
【待受時間】4ターン
【待受回数】1ターン1回
【カウンタータイミング】後手

<補足>

<能力原理>

敵を殺戮した後、達成感から恍惚のうちに優雅にスカートを摘み上げて聖水を排出する。
聖水なので無敵になる。

キャラクターの説明

 一族中の魔人率が99%を超える戦闘破壊家族、一家(にのまえけ)の一人。花は最も美しい時期を過ぎてしまえば後は醜く枯れるのみ。それならばその輝きが絶頂を迎えた瞬間に摘んでしまう事でその美しさを保ったまま永遠の存在になる。そう考えた彼女は純粋な善意から、美しさの絶頂にある(と彼女自身が認識したものであり、その判断基準は他者では決して理解出来ない)対象を花を摘むかの如く永遠にする。
 また、生物を生物として認識する事が出来ず、あらゆる生物を花として認識している異型先天性相貌失認者。つまり彼女の世界には、意思を通じ合える花と物言わぬ花、その二種類しか存在しない。花園にて踊り続ける彼女が幸か不幸か、それは誰にも判じる事は出来ない。
 花を摘んだ(人を殺した)後は排尿したくなる心因性殺戮後排尿症候群(フォックス・シンドローム)罹患者の為、下着は付けずにいつでも排尿できるようにしている。
 摘むべき花を目にしない限りは、至って上品で物腰の柔らかい、おっとりとしたお嬢様。もっとも、殺戮に及ぶその時ですら悠然とした振る舞いは変わらないのだが。

 一家の一族は善良な者も多いが、そもそも善悪の概念では語れない者も多く存在する。

「まぁ…………まことに美しい花が咲いていらっしゃいますね。わたくし、貴方のような花を見ると…………」

エピソード

『明日ありと思う心の仇桜』

1,発芽

 一八七ニ三(にのまえ・はなつみ)はサイコパスである。
 同時にシリアルキラーでもあった。
 私立妃芽薗学園。
 彼女が通う学園は百花咲き乱れる花園であったが、美しい花には刺がある──────
それだけでは済まない、狂い花もまた、艶やかに咲き誇っていた。


 爽やかな朝に、思春期の少女特有の騒がしくも聞こえの良い声が響き合う。
 「おっはよ!」
 等間隔に立ち並ぶ槐の並木。寮から校舎への登校路を先行く同級生に、軽やかな駆け足で追いついたのは明るい髪色のシャギーが入ったショートカット少女。きりりと活発な印象を与える外見そのままに、聞く者の耳を惹きつける明るく大きな、しかし決して不快ではない挨拶が、先行する少女──────八七ニ三の足を止めさせた。
 「お早う御座います、京華さま。ご機嫌よろしゅうございまして?」
 淑女は気品を保ちながら立ち止まると、隣に並んだボーイッシュな少女──────
春日部京華(かすかべ・きょうか)へ緩やかに微笑む。腰の辺りまで伸ばした柔らかな髪はふんわりとした巻き髪で、おっとりとした礼儀正しさと相俟って一層彼女の高貴さを引き立たせていた。
 「はーい、ごっきげんよろし! はなちゃんは相変わらずお嬢さまきれいですなー」 
 「ありがとう存じます。京華さまもお元気そうで、何よりでございますわ」
 朝の挨拶を交わし合う少女二人。見た目も性格も対照的な二人だったが、不思議と波長が合うのか一緒に居ることも多い。口さがない年頃の学園生たちからはただならぬ不健全な仲なのでは……という噂もまことしやかに囁かれたが、当人たちはそれを否定していた。一人は大笑いしながら、もう一人は穏やかに微笑みながら。
 王子様のような京華と、お姫様のような八七ニ三。それぞれを自らの理想に見立て、心酔する者たちからすれば嬉しい否定であったが、一方で想像力逞しい一部の学園生の中にはその否定すら自らの妄想材料とし、ふしだらな邪念を抱く者さえ居る始末だった。
 登校を再開しながら京華は鞄の中より苺のジャムパンを取り出し、封を開ける。
 もふっ、と大きな口で頬張る乙女らしからぬはしたない姿に、思わず口元を抑える令嬢。
 「まぁ…………」
 「へへ、朝練でお腹空いちゃってさー」 
 悪びれた様子もなく、歩きながらもそのままぺろりと平らげる。言葉の通り、登校前の早朝練習で汗を流す彼女は女子サッカー部のキャプテンであり、押しも押されぬエースストライカーでもあった。そんな京華が悪戯っ子のような笑顔を浮かべるのを八七ニ三は微笑ましそうに見つめたが、ふと何事か気付く。
 「あら、これはいけませんわ。…………ごめんあそばせ」
 「んっ?」
 懐から純白レースの清潔なハンカチを取り出すとやや爪先立ちに背を伸ばし、京華の口元にそっと宛てがう。唇と唇が触れ合いそうな距離に、周囲の女生徒たちからは歓声とも悲鳴ともつかない、きゃーっ、という黄色い声が上がった。
 「…………これでようございますわ。お気をつけくださいましね? 女生徒憧れの君が口元にジャムを付けて登校では、ファンの方々を幻滅させてしまいますもの」
 くすり、と小首を傾げるようにして微笑み、丁寧にハンカチを畳む。そうしたなんでもない所作の一つ一つが実に優雅でたおやかなのは、動きに無駄がない──────直線的ということではなく、その全てに意味があるように見えるからだろう。
 「あははっ、ありがとーねー。なんか照れるにゃー」
 「いえいえ…………それでは、参りましょうか?」
 再び、二人は歩み始めた。


2,発根

 時は過ぎて、お昼休み。午前中の授業を終えた少女たちは、それぞれ昼食の時を過ごし始める。連れ立って食堂に向かう者。購入してあったパンを鞄から取り出す者。
そして──────。
 「うーむ、相変わらず絶品ですな、おじょーの手作り弁当さんは!」
 もぐもぐ、と鶏ささみのバター焼きを栗鼠のように口いっぱいに頬張りながら感想を洩らす京華。
 「恐れ入ります。お褒めに預りまして、まことに恐悦至極に存じます」
 深々、と頭を下げる八七二三。赤いタータンチェックのクロスが敷かれた机を挟んで座る二人の前には大きさの違う、しかしおかずは同じものが入った弁当箱がそれぞれに並んでいた。
 「このほうれん草のピーナッツ和えも甘口でおいしーし、この玉子焼きは……明太子が入ってる?」
 「はい、マヨネーズとみりんで柔らかめに仕上げております。明太子は少し塩味が 出ますもので……」
 目移りしながらぱくつき、ほぇー、手間暇かけてこさえてありますなー、と感嘆の声を上げる。子どものような仕草を暖かい目で見守るその様子は、最早毎日の恒例行事であった。その周囲には更に暖かい目でほのぼのと眺める者、涎を垂らさんばかりに指を咥えて羨ましそうに見つめる者、果てには自分も慕っている先輩の為に手作り弁当を持参したものの、中に入って行けず切なそうにクラスへ戻る下級生──────。
 「まったく! お料理が上手で気配りもできて、おまけに器量良しだなんて、お嬢さま
 をお嫁さんにできる男の人は幸せ者ですな、まったく!」
 「まぁ、お上手でいらして…………どう致しましょうか……」 
 うふふ、と困ったように柳眉を垂らし、頬に手を当てると微笑を浮かべる。
 「やっぱりだめ! おじょーは私の嫁にするのだー!」
 自らの胸元に掻き抱くように抱き寄せると、顎先で令嬢のつむじをくりくり、となぞる。
身長差の所為かどちらかと言えば、嫁というよりも愛玩用の小動物に対する振る舞いであったが。
 「困りましたわ、プロポーズされてしまいました…………食後のデザートに、林檎とネーブルオレンジをご用意しておりますけれど、どちらに致しましょうか?」
 好き放題に撫で回されながら、健気にも尋ねる。特に取り乱す様子が無いのは、既に日常風景だからなのかもしれない。
 「んー……じゃあ、今日はりんごさんで!」
 「かしこまりました…………少々お待ちくださいまし」
 食べる速度はむしろ京華の方が断然速いのだが、食事中に色々と余計なちょっかいを掛けたり、そもそも弁当箱のサイズが違う所為かいつも八七二三が先に箸を置いていた。
今日もその辺りは変わらず同じなようで、ウェットティッシュで手先を丁寧に清めた後にツヴィリングのペティナイフと林檎を取り出すと、京華が食べ終わるタイミングに合わせてしゅるしゅると皮を剥き始める。
 「それにしても器用だねー。私だったら絶対指切っちゃう」
 手馴れた様子でさくさく、と小さく切り分けてゆく姿に、毎度の事ながら感心する京華。それに対し、
 「大したことではございませんのよ? 単純に慣れの問題で……」
 話しながらも危なげなく、一つの林檎を二つに。四つに。八つに。
 「いやいや、その境地に至るまでがねー…………あーん」
 雛鳥のように口を開け、餌を待つ。
 その口元に、微笑みながら至って自然に小さく切った林檎を宛てがう。
 指先が、唇に近付く。口内に消え行く禁断の果実。
 指先が、唇に触れる。果汁に含まれた禁断の味。
 ちゅぷり、と背徳の蜜音が響いた。


3,結蕾

 中庭に造られたレンガの花壇。開花を間近に控えるアネモネの蕾が並ぶ。
 白。赤。紫。
 可憐な姿を咲き誇らせるその時を、今か今かと待ちわびて。
 太陽の光をいっぱいに浴び、そよ風に震える陽葉に慈雨が降り注ぐ。
 「おっ、今日もお花の世話? 日曜日なのに感心感心っ!」
 部活の練習用ユニフォーム姿で腰に片手を当てた、すらりとしたシルエット。快活な声。
 掛けられた声に、恵みの注ぎ手──────如雨露を手にした少女が振り向いた。休日
にも関わらず、生真面目な制服姿。しっかりとアイロンがけされた折り目正しいプリーツ
のスカートが、社交界に花咲く姫君のドレスのように翻る。
 「お早う御座います、京華さま。…………はい、開花前の今が一番大切な時期ですもの」
 優しげな慈しみの眼差しを、小さな蕾たちに向ける。彼女は園芸部でも園芸委員でも
なかったが、日頃より率先して草花を丹精していた。
 「そっかー、綺麗に咲くといいね!」
 「ええ………………本当に」
 二人並んで、見守るように。
 「…………けれど、咲いた後は散ってしまうものでございます」
 ふと、憂い帯びた声で寂しそうに呟く。当たり前の事実。当然に帰結する自然の摂理
だが──────物悲しい呟き。傷心の令嬢を慰めようとして、言葉を紡ぐ。
 「まぁ、ずっと綺麗なままで、って訳にはいかないよね。散りぬべき時知りてこそ
 …………えーっと……」
 「……散りぬべき時知りてこそ世の中の、花も花なれ人も人なれ……で、ございますね」
 争いに揺れた戦国の時代、儚く散った貴人の遺した辞世。
 花も人も、散りどきを心得てこそ美しい──────無常と諦念。或いは、侘びと潔さ。
 「そう、それそれ。綺麗に咲いちゃったら、その後はぱーっ、と散る。そういうもの?」
 うんうん、と頷く。歴史の授業で聞きかじった浅はかな知識だったが、何処か心に響い
たのかその断片は京華の記憶にも残っていたのだろう。
 並んだ花蕾をその瞳に映しながら、京華へ問う。
 「わたくし達は、謂わば今は蕾のようなものでございますけれど…………京華さまは
 仮にご自分が花開くとしたら。それは、如何なる時だとお思いでしょうか?」
 戯れのように寄せられた問い掛けにも、真剣に考え込む。それは彼女の美徳の一つ。
 「そうだね…………」
 憂慮の表情さえ、若き皇子のように。
 「うーん、先の事は分からないから何とも言えないけど…………今はやっぱり、部活やってるときが一番充実してるかな?」
 にこーっ、と眩しい笑顔を浮かべる。
 「ってわけで、次の大会は頑張って輝かないとね! 応援よろしくっ!」
 背中から覆い被さるように。腕を回してふんわり、と包み込むように抱き締める。
回された京華の優しい指先が細腰の前で八七二三のたおやかな指頭を捉え、お互いに絡ませ合う。
 二人の間に漂う鼻をくすぐる薫香は果たしてどちらのものか。そよ風さえも吹き抜けるには躊躇し、暫し留まる。
 肩越しに見つめ合う二人。刹那の時間は、永遠に変じて。
 だが。
 差し込まれる異物感。それは砂利を踏む足音。
 するり、と花蕾の中から抜け出す蝶。甘い蜜華で羽を休める時間は、終りを告げて。
 「あ、あの…………せんぱい、監督が呼んでこい、って」
 校舎の陰から現れた気の弱そうな部活の後輩──────ひょっとするとマネージャーかもしれない──────が、遠慮がちに呼び掛けた。逢瀬を邪魔した事に気が引けているのだろう。
 「ありゃー、サボりがバレちゃったか。まぁ、花お嬢さま成分も補給できたし、名残 惜しいけどそろそろ戻るか」
 ぽりぽり、と短髪の頭を掻き上げる。
 「はい、行ってらっしゃいませ」
 火打石でも打ち合わせそうな良妻の、貞淑な会釈。それを背に、後輩と連れ立って去ってゆく。
 アネモネの蕾は、何も語らずに揺れていた。


4,開花

 抜けるような青空。白い雲の切れ端が、僅かな残響のように漂う。
 目を下ろせば、青春の炎に身を焦がす少女の群れ。
 流した汗の質を競う、練習試合。
 駆け巡るのは、魂の花々。
 その中心に居たのは、全身からは生命力を溢れ出させ、瑞々しい若魚のように躍動する少女だった。
 一つのボールを敵と奪い合い、味方と繋ぎ合い、遂には己が下僕とする。
 大地を蹴る両脚はその身と下僕を力強く、そして華麗に運び、他者を寄せ付けない。
吹き抜ける風さえ、威風となる。
 フィールドの上に君臨する彼女は絶対支配の女王であり、唯一燦然と輝く太陽であり、そして──────今が盛りと満開に咲き誇る、大輪の向日葵であった。

 学園には、怪物が棲んでいた。
 美しく咲く花を、その絶頂に摘み取る花狩人。
 決して見逃しはしない。
 そこにあるのは慈悲と善意。
 優しく穏やかに、緩やかに。

 一人の少女が居た。
 叶わぬ想いに身を焦がし。
 せめて想い人の傍に居たいと願い。
 憧れの君の逢瀬を目にし、人知れず傷付き。
 それでもなお、恋する心に身を委ねて遠くから純なる愛の眼差しを送る。

 その心は偽りなく、曇りなく、間違いなく。
 恋する乙女は、何よりも美しく咲いていた。
 そして。
 その花が枯れることは、もう、無い。
 永遠に。

 試合を終えた京華はスポーツタオルで汗を拭きながらベンチに戻ると、コートより少し離れた場所から静かに歩み寄ってくる八七二三に気付いた。
 「あれ、お嬢、何処か行ってた? スーパーゴール決めたんだけど、見ててくれた?」
 「申し訳ございません、少し…………」
 ──────花摘みに行っておりましたの。
 僅かに頬を染め、恥ずかしそうに微笑みながら愛嬢は答えた。


 一八七ニ三(にのまえ・はなつみ)はサイコパスである。
 同時にシリアルキラーでもあった。
 私立妃芽薗学園。
 彼女が通う学園は百花咲き乱れる花園であったが、美しい花には刺がある──────
それだけでは済まない、狂い花もまた、艶やかに咲き誇っていた。


                                  <了>



TIPS
※明日ありと思う心の仇桜……「明日ありと思う心の仇桜 夜半に嵐の吹かぬものかは」。
              明日も美しく咲いているだろうと安心していても、桜は
              今夜にも嵐にあって散ってしまうかもしれない。詠み人親鸞。
※サイコパス…………反社会性人格障害者。特徴として良心の異常な欠如や罪悪感の無さ、
          誇大的な自己価値観等が挙げられる。
※シリアルキラー……殺害行動を主目的とする連続殺人者。犯人がサイコパスである場合、
          サイコキラーと呼ばれる場合もある。
※貴人………………明智光秀の娘、細川ガラシャ。
※槐……………………花言葉は「上品」と「慕情」。
※林檎………………花言葉はそれぞれ、(花)「選ばれた恋」(実)「誘惑」。
※アネモネ…………花言葉は「清純無垢」と「恋の苦しみ」。
※向日葵………………花言葉は「熱愛」と「崇拝」。
※周囲の女生徒たち……春日部京華のファン。橘沙耶香(たちばな・さやか)もその一人。
※クラスへ戻る下級生……橘沙耶香。
※部活の後輩………………橘沙耶香。
※一人の少女…………橘沙耶香。
※花摘み…………草花を採集する行為。また、女性が用を足す際の隠語。だが一八七二三
        の場合は別の意味も持つ。

最終更新:2011年09月01日 18:04