invisible cage


「いつも弟の相手をしてくれてありがとう」
いつも通り、勉強の時間が近づき、去っていく坊ちゃまを見送り、庭の手入れをしていると、そう声をかけてこちらへと歩み寄ってくる女性がいた。
2度か3度しか会ったことのない相手だが、坊ちゃまの歳の離れた姉だった。
軽くウェーブした金髪をなびかせながら立ち止まり、言葉に反して申し訳無さそうな表情で俺を見ている。
「どうかなされましたか?」
「あなたに謝らなくてはならないの」
何を、と俺は不思議そうな表情を浮かべてしまう。この屋敷での俺の待遇は獣人としては破格と言えるものだ。
人間でもやりたがる筈の仕事を堂々とやらせてもらっている。謝られるような事はなかったはずだ。
「そんな、お嬢様に謝られるようなことなど……」
「いいえ。あやまらないと。あなたを利用してしまったから」
利用、何をどう利用していたのか、獣人の頭では咄嗟に思いついたりは出来ない。
それを察したお嬢様が、本当に申し訳ないわ。と説明しだす。
「あなたから情報を貰って反乱を企てている獣人たちの居場所、保健所へ通報したわ。
かわいそうだけど、今頃は一人残らず駆除されていると思う」
「な、お嬢様、何を・・・・」



頭の中が真っ白になる。何処からばれていたんだろうか。いや、そうじゃなくて、ああもう、混乱して何も考えられない。
「弟を思うあなたの気持ちは知ってる。だから、あなたは協力者として扱った」
協力者、言い換えれば裏切り者だ。俺は、獣人たちの中で忌み嫌われる人間の味方にされてしまったのだ。
お嬢様がなおも話す。えげつない事をしてしまった、もうあなたは獣人の仲間からも命を狙われる
居場所はこの屋敷以外どこにもないと。だから、いつまでもここにいて、弟の大切な友達でいてと。
頭が真っ白になる。それも過ぎると、怒りが湧いてきた。獣の唸り声を上げて、目の前の憎い相手に飛びかかろうと前項姿勢になる。
だが、お嬢様は慣れた手つきでポケットからスイッチを取り出した。それだけで、俺は動けなくなる。
「もう獣人を対策無しに飼う事は、それだけで犯罪なの。知っているでしょう。あなたの首輪」
「・・・くぅぅ」
抵抗さえ出来ない。俺の視界はみるみる涙で滲んでいった。お嬢様は、最後にまたごめんなさいと言って去っていった。
俺はその場に蹲って泣き続けた。他にどうすればいいか俺の頭では分からなかった。

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最終更新:2009年06月14日 02:16
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