man-made fluit of Knowledge



「ふぅ、獣人どもなんて結局こんなもんか」
人間離れした俊足を武器に、こちらを追いかけてくる獣人へと発砲を続けながら、工場内の入り組んだ廊下を走り続ける。
向こうからも銃声が聞こえてその内一発が脇腹を貫通した。俺はうぅと唸る。
俺は何とか曲がり角を曲がり壁に備え付けられたキーボードに暗証番号を打ち込む。シャッターが降り、獣人たちの行く手を遮る。馬鹿な獣人では工場内の地の利は分かってもギミックが理解できない。
だが安心する暇も無い。逆方向から足音が聞こえる。俺は再度暗証番号を入力して反対方向のシャッターも閉める。閉じ込められた結果だがこれで時間は稼げる。最後に自分を見つめなおす時間ぐらいはあるだろう。
両側のシャッターを銃で撃ったり、鈍器で殴打する音が聞こえる。それから悲鳴も。
『ギャアッ』
『大丈夫か!?何があった!?あいつの仕業か!?』
ばーか。シャッターを撃ったりするから跳ね返った兆弾が当たったんだよ。
まったく獣人はバカばっかりだ。自分より強い相手に戦争なんかしかけて、このまんまじゃ滅ぶばかりだろうってんだから、哀れんで頭の良い個体も作ってやったってのに。
これじゃあ今まで味方してた他の擁護派にもケンカ吹っ掛けてるんだろうな。そのせいで愛想を付かした擁護派から情報流れて、何個くらいの集落が消されちまうか。アホにはお似合いの結果だ。
「それになぁ、ただであんなもん作ってやるかよ。
どうせこんなことだろうと思って、保険賭けといたんだ。事と場合によっちゃ、あいつが獣人を滅ぼすぞ」
俺が開発した全く新しい知能の高い獣人は頭が良いだけじゃない。この戦争のきっかけになった不備を完全に修復している。
遺伝子レベルで人間を主人だと認識して、その命令に背くことを不可能にする細工。そう、服従遺伝子の完成形だ。
あいつらには俺が何をしているか全く理解できないから、目の前で堂々とその遺伝子を組む事が出来た。
完成と同時に服従遺伝子に関する全てのデータを破棄して、人と獣の遺伝子を融合させる連結部の一部としてレシピに記してある。自分でもその作用を体験するまで服従遺伝子と気付く事は出来ない。
この先あいつが自慢の頭脳で新しい仲間を生産するとしても、遺伝子の結合部と誤認したまま服従遺伝子を使うことになる。まあ、遺伝子の洗練化を考え始めたら削れる部分の一つとして削るかもしれないが。
奴も新しい獣人もきっと集落の一番奥で人間と最も離れた場所で大切に育てられるのだろうけど、もし一目でも人間を見れば服従遺伝子が覚醒する。
そうすれば人間に恋焦がれ、人間の側にいたいという気持ちを抑えられなくなるだろう。人間のために自分の命をささげたくなるはずだ。獣人が人間に歯向かうのを何としても止めたくなるはずだ。
元はと言えば獣人と人間の和解の切っ掛けとして獣人のリーダーが人間に恋焦がれていればと考えて開発したのだが獣人があくまで攻撃的ならば、絶対に良い形での発露は無いだろう。
それに、結局最大の問題は解消されていない。今回完成したのは人間並みに頭の良い獣人だ。
発情したりムラムラしたりできるだろうけど、生殖能力はないままだ。工場生産品と言う現状は変わらない。
もしも人間に工場の場所を隠し通す事が出来ずに工場を爆撃でもされれば獣人はそれで終わりだ。依然として絶対的に不利な立場である。
人間を妥当する事しか考えられないバカとは違う、頭の良い獣人は現状をどう考えるか非常に気になるところだけど、それを確認する事が出来なさそうなのがちと残念だ。
シャッターを破壊しようとする音が大きくなってきた。大勢が集まってきているようだ。もうあまり時間は残されていないようだ。
俺は大きく溜め息をついて額に銃口を当てて引き金を引く。
「げげっ」
だがもう弾切れのようだった。これでは自殺も出来ない。酷い目に合わされて死ぬのは嫌だったが、まあ仕方ないだろう。
リーダーが出来上がったとしても、結局動くのはこの馬鹿な奴らだ。新しく生まれてくる奴らも、俺と同じようにこいつらを見下すだろうなぁ
意識が遠のいてきた。脇腹からは結構な出血をしている。これは幸いだ。出血多量死は案外気が楽かもしれない。ガンガンとシャッターを叩く音は耳障りだったが俺は目を瞑って眠るように意識を失った。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年05月06日 05:55
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。