undivided summer

登場人物
  • 俺(名前が分からない)
  • 千秋
  • 三太郎

※獣八禁ホモエロ注意、放尿有り、物語性ほぼ無し、ヤるだけ



☆ ☆ ☆

 網に入れたスイカを二つ川に放り込んで、灰色の獣人は桟橋に腰を下ろした。
透明に輝く水面に両足を浸す。 足の裏に砂利を感じた。
夏の夕日が煙突の影を長く映し出す。もう星が出ている。
深呼吸すると、トウモロコシのよく焼けた匂いが漂ってきた。

「サボんなよ」
「サボってないよ」
「じゃあ、ぼーっとすんな」
「わるいか?」

 水面に千秋のにやけた顔が映る。
予想はできていたが、そのまま俺は突き落とされて、ずぶ濡れになった。
カーキの作業服の中までぐっしょり濡れて重い。
鼻に水が入り粘膜がツーンと痛くなった。

「きさま!」
「手が滑ったのよ」
「ったく冷てぇな」
「はやくスイカ持って来いよ、肉がなくなっちまうぞ」

 千秋は太い尾をゆっくり振りながら行ってしまった。
千秋に向かって水を掛けようと思ったが、やめた。
ランニングシャツから筋肉質の腕が逞しく生えて、黒くボサボサした毛皮が夕闇に溶ける。
小柄だった千秋が、いつのまにやら俺より長身に、俺より男らしくなっていく。
悔しいような気持ちを抱きながら、しばらく千秋の背中を見つめていた。

 川から這い上がると、靴の中で泡が吹き出るような不快な感覚が伝わってきた。
明日も労働だし風邪を引く訳には行かないので、なんとかして着替えを探さねば。

 テントの前まで戻ると、網焼きの前で三太郎が芋を貪っていた。
太り気味の彼にとって夏は灼熱地獄のようで、大抵上半身裸でいる。
鼻面に汗を浮かせながら、せっせと芋を焼き、手づかみで口に運んでいる。
せめて、火が通ってから食べるべきだと教えてあげた方がいいだろうか?
あまりに三太郎が一心不乱なので、俺は話しかけずにテントに入った。

「千秋、シャツは?」
「まずは脱げと」
「着替えたいんだけど?」

 千秋は伸びをすると、ナップサックの中から薄汚れたタオルを取り出し俺に放り投げた。
タオルは白くなかったが、ちゃんと乾いている。
かすかに、千秋のにおいがした。

「おま、マジでびしょびしょじゃんか! テントの中まで湿気っぽくなるわ」
「誰のせいだよ!」
「着替え持ってきてないから、外で乾かしてね」
「炭臭くなる」
「男なら裸で十分だ! 三太郎を見習えよ」

 千秋は高い声を張り上げて、自らシャツを脱ぎ去った。
無邪気な挙動とは裏腹に、がっしりとした胸と腹があらわになった。
やや毛の長い薄汚れた雰囲気が、よりいっそう野生的な肉体を作り出している。

「ほら脱げ、また藪蚊ががどうとか日焼けがどうとか女みたいな理由で熱くるしい格好するのは今日で終わりだぞ」
「……わかった」

 正直、千秋たちのまえで肌を出したくない理由は他にあった。
純粋に恥ずかしい。 男同士にもかかわらず俺にとっては、腹の奥をくすぐられる様な妙な感情がわきあがる。
濡れて毛皮に密着した作業服がなかなか脱げない。
てこずっていると千秋が近づいてきた。
いつもの笑顔だが、そのにやけた笑みが少しだけ怖い。

「不器用すぎ」
「わるい」

 無理やり作業服を脱がされたので俺は尻餅をついた。
パンツ一枚になった俺は、必死で平常心を取り繕うとして立ち上がった。
頭の中では、自分のトランクスの隙間から大事な部分が覗かれていないかどうか気になって仕方が無い。

「おまえ、なまら痩せたな」
「むしろ太った」
「うそこけ、よし、食うぞ!」

 自分の肉体を見られて、少しへこんだ。
自分は痩せたのだろうか? そんなことを考える間もなく千秋が俺の首を腕で絡み、肩を組む形になった。
千秋と肌と肌をつき合わせて、俺は頭に血が上り始めた。
相変わらずヘラヘラしている千秋は、俺の事をどう思っているのだろう。

 三太郎がテントの中を覗き込んだ。
一瞬、目をそらしたように見えた。
気のせいかもしれない。

「俺が全部食っちゃうぞ、早く来てよー」
「今行くとこ」

 俺は千秋の腕の重みを肩に感じながら、テントの外へ出た。
パンツ一丁で外に出ることに少しばかり抵抗があったが、致し方ない。
三太郎は手馴れた手つきで団扇をあおぎ、炭火を赤く焚きつけている。
パチパチと小気味よい音が響く。

 三人だけのキャンプ。
親友だけで過ごす夏祭りも悪くないかもしれない。
金の無い俺たちが、人間達の主催する祭りに参加しても、何一つ楽しい事はない。

 人間と獣人の戦争が、起こるかもしれないと言う噂だった。
俺はそれほど人間に対して恨みも希望も抱いていない。
どことなく、うつろで、他人事のような感覚だ。

 自分達は、あたらしく作る橋の工事を人間から任されている。
やや危険な崖の上で、重い鉄骨を獣人が運び、人間が指示を出す。
工事現場には獣人が不可欠だ。獣人がいなければ人間は橋すら作れない。
暮らしていくのには十分な賃金を人間から支払われていたが、
実は、その賃金は人間と比べれば格段に少なく、
そして、当たり前だと思っていた肉体労働は、もはや奴隷と言っても過言ではない条件にあること。

 そんなふうに考えたことは無かった。
少し怠ければ鞭打たれることは、人間にとっても普通のことであるし、
誰かが崖の下の川に落ちて怪我をしても、それは、そいつの責任。
死んでしまったら、祈るが。
食事は自分で獲る。人間に養ってもらうほど落ちぶれてはいないし、
家があるのは貴族だけ。学校に行くのも、子供が働かないのも貴族だけ。

 それらを、人間が酷い仕打ちをすると、言い張る獣人がいる。
たしかにウザいとか偉そうだと思うことも確かにあるが、相互に助け合って工事をしているようにも見えるではないか。
自分は深く考えたことが無かった。獣人も人間も、けっきょく同じ。

 しかし、獣人と人間の戦争が本当に始まったら、きっと自分は意図も簡単に人間を恨むようになるだろう。
まわりに流されて、自分の意思がハッキリしないのは、きっと俺の欠点だ、
だけれども、その欠点を変える努力のやりかたも必要性もまったく分からない。
俺は、俺でしかない。 俺は俺を知らない。


「あれ? スイカは?」
「あ、忘れてきた」
「おい、あわてろよ! どこに置いて来たのよ?」
「待てって」

 あたりはすっかり真っ暗になって、駆け出した千秋は見えなくなった。
すぐ近くで千秋の騒ぐ音だけ聞こえてくる。
川のせせらぎも聞こえなくなっていた。


「なあ、」

 突然三太郎が小さく話しかけてきた。
比較的無口な俺と同じで、三太郎から話題を振ってくることは珍しい。

「三太郎? どうした?」
「あのさ」

 焦げたトウモロコシの芯がはじけた。
三太郎は再び黙り込んでしまった。
火バサミで炭の位置を整える。
程なくして千秋がびしょ濡れで戻ってきた。

「俺も川に落ちた」
「大丈夫か?」
「大丈ばねぇわ、なんまガポってる、寒っ」
「千秋って、たまに妙な方言出るよな」
「あ? 標準語だべや」
「スイカはどうした」
「ほれよ!」

 千秋は網に入ったスイカを揚々と持ち上げて見せた。
スイカは、川の水を浴びてしっかり冷えている。
今日のデザートでありメインディッシュかもしれない。

「二個? どうやって三人でわけるの?」

 三太郎が訪ねる。
時折三太郎は頭が弱いふりをしているが、実際三人のなかで一番聡明なのはおそらく三太郎だ。
どうやら包丁を持ちたくないらしいので、俺は三太郎に合わせてやる。

「初めから三等分するからややこしくなるんだ、スイカは丸いから切りづらいだろう?」

 俺は、初めにスイカ二つを半分ずつに四つに割って三人で分け、のこった半球一つ分を六等分する方法を提案した。
千秋は納得していないようだが、もとよりたとえ3等分にならなくても怒ったりする性格じゃないし大丈夫だ。
俺は、刃こぼれの酷い粗末で古い文化包丁を取り出した。
三太郎が怪訝な目で刃先を見つめる。
俺がスイカに刃を入れたとき、三太郎が目をつぶったのが分かった。
そんなに刃物が嫌いなのか、と思った。

 スイカ三分の二個分は少し多すぎるかと思ったが、意外とすぐに食べ終えてしまった。
三太郎は、焼肉の焦げた残りやスイカの皮を一人で食べていた。
三太郎はあまり感情を表に出す方ではない、無表情で食べ物を頬ばっていると、たまに機械的で怖い時がある。

「食いすぎるなよ」
「今食わずして、いつ食うの? いつ食べられなくなるか分からないんだよ」
「おまえは太りすぎ」
「そうでもないと思うんだけどね」

 三太郎は自分のお腹を叩いたりつまんだりしてから、ようやく食べるのを止めて、片付け始めた。
食器に使った紙皿は、そのままゴミの袋に放り込む。
こんな真っ暗な中、川まで洗いに行くほど几帳面ではない。
三太郎はバケツの水を炭にかけて、火を完全に鎮火させた。
灰と湯気が立ちのぼる。

 本当なら、このあと花火をする予定だったが、スイカを奮発したら資金不足になった。
とりあえず、テントに入る事にする。

 どこへいっても、結局真っ暗なのだ。
懐中電灯のような利器は残念ながら手元には無く、ただ夜闇がテントの中を満たしていた。
千秋がタバコを吸いに外へ出た。
ライターの火が外からでも見えて、テントの青いシートに不気味な影の模様を作り出した。

「さっき、話そうと思ってたことなんだけど」
「三太郎?」
「急な話で、ごめんね」
「なにがだよ?」
「千秋には言わないでよ」
「だから、なに?」

 三太郎が言葉を詰まらせた。もしかしたら、泣いているのかも知れない。
ゆっくりと、しぶるように声を出す、

「出稼ぎに、行こうと思うんだよね」
「おう、何だよ、全然秘密でもなんでもないんじゃ?」
「いや、秘密にしていたいんだ。だれにも言いたくなかった」
「なぜ、俺に?」
「本当はすごく、言いづらいんだけど」

 千秋がタバコを砂利で踏みつける音が聞こえた。
もうすぐ戻ってくる。

「ごめんね、やっぱりいいや。 今のこと内緒にしておいてね」
「おう……」
「ごめんね……」


「うは、むっし熱いな、男ってかんじ」
「わるかったな」
「俺、もう寝るわ、おやすみ」
「あいよ」

 真っ暗なテントの中ですることなんて無かった。
昼間楽しんだ分だけ、夜はまどろみの溶ける様に、体が動かない。
しばらく静寂の中で三太郎や千秋のことを考えていた。
三太郎の寝息が聞こえ始めた。出稼ぎに行く事、何故そんなことを秘密にしたいんだろう。
いつのまにやら、俺も眠ってしまっていた。


☆ ☆ ☆

「星がめっちゃ出てるぞ、見にいこうぜ」
「千秋?」
「いいから、出て来い」

 真夜中に突然起こされた。
千秋が小声で揺さぶってくる。
千秋の吐息を耳に感じた。いつもの笑顔が暗闇の中に想像できた。

 ひきづられるままにテントの外に出ると、風が心地よかった。
裸の自分達を涼やかな気分にさせた。
月の無い夜は、満天の星空が川原に広がっていた。

「な、すげぇだろ!」
「きれいだな」

 どの星にどんな名前が付いているのかは俺は知らない。
ただロマンチックな気分になるには十分だった。

「三太郎は?」
「起きない」
「そうか」

 千秋は川原に腰を下ろすと、タバコに火をつけた。
あいかわらずのヘビースモーカだと思った。あのニタニタ笑いはタバコのヤニが原因なのかもしれない。
ライターの火が千秋の黒い毛皮を照らす。
筋肉の形がよく分かる無駄な贅肉の無い腕と、割れた腹筋。
太くふさふさした尾の付け根は、引き締まった尻と思ったより太い太股。
タバコの煙を吐き出すと、連動して肉体が上下する。
生きた男がそこにいた。

「千秋? おまえ全裸か」
「おまえもだろ」

 気付けば、俺もパンツを穿いていなかった。
素っ裸だ。
自分の顔がみるみる赤くなっていくのが分かった。
真夜中で本当に良かった。 恥ずかしくて立っていられず、俺は座り込んだ。

「綺麗な星の下で、こういうのも悪くないよね」
「こういうのって」

 千秋が立ち上がって、タバコを投げ捨てた。
川に火が落ちてジュっと音を立てた。

 あぐらをかいた自分の目の前に、千秋が仁王立ちした。
千秋の雄を、かすかな星明りが照らす。
何も言わなかった、何も言えなかった。
爽やかな風に、むっとするような肉肉しい匂いがする。
毛並みのよい黒い包皮に包まれた突起が、俺の目の前にぶら下がっている。
俺の体温が、どんどんあがっていく。 はじけそうな衝動にかられた。

「俺のこと、ずっと見てただろ」
「……なっ」
「気持ちよくしてよ」

 俺は呼吸が乱れ、頭がどんどん真っ白に燃え上がり始めた。
汚らわしい、認めたくなかった。
自分は千秋と、みだらな事をやってみたいと、いつも心の奥の深いところで望んでいたようだ。
俺の思考は、理性はほとんど停止して、目の前の千秋を口に含んだ。
味とか感覚とか、五感で説明できる感触ではない。 俺は貫かれている。

 俺はただ、左腕を千秋の腰に回し、右手で千秋のペニスの包皮を剥いた。
軟らかかった肉棒がゆっくり充血し、新しい味がした。
色はきっと、薄い桃色。
俺は鼻で呼吸するしかない。千秋の下腹部のにおいをただ、吸い込んでいた。

「もしかして、初めてじゃ、ないの?」
「……」

 千秋は俺の頭を両手でわしづかみ、腰を振るようにピストン運動をはじめた。
俺の口の中は、乾いた粘膜でニチャニチャと下品な音を立てていた。
硬く弾力のある肉棒は、自分が思った以上に長くて太い。
口に含むと言うより、喉までねじ込まれるように、奥まで突かれている。

 俺は無意識のうちに、自分の左手を、自分のペニスへと運んだ。
今まで自慰するときも、ここまで硬くなったことは無かったかもしれない。

「俺も、舐めてみたい」

 千秋がピストン運動をやめ、俺の口からヌラヌラと肉棒を抜いた。
唾液と得体の知れない汁を想像した。ものすごい快楽物質を含んでいるかのよう。

 俺は肩を押さえつけられ、後ろに倒された。
千秋は俺の口をペロっと舐めた後、軽やかに俺に跨り、尻を向けた。
千秋の尻尾の付け根は、毛が短くなっていて、そしてまったく毛の無い部分があった。
俺の顔の上に後ろ向きでひざまずいた千秋は、そのままペニスを俺の口にねじこんだ。
夜風にあたり、少しひんやりとして、粘液がよりいっそうドロドロしている。
俺は、マズルを千秋の肛門とコリコリした睾丸におしつけながら、必死で呼吸していた。
俺の腹の上に重みがかかる、すぐに俺のペニスは千秋に咥えられ、ギンギンとみなぎってきた。
自分達は今、どんな体勢になっているんだろう。
千秋の舌の感触や、歯の当たる感覚を、自分の息子全体で感じる。
荒げた呼吸が聞こえる、自分のものなのか、千秋が発しているものなのか。
おもいだした、これは69というやつだ。

 千秋の肘が俺の下腹部に当たった瞬間、俺はヤバくなってきた。
射精しそうな感覚は、徐々に薄れ、やがて、明確な尿意に変わっていった。
すこし寒気がする。ふと我に返ると、千秋のまたぐらから星空が見えた。
小便が漏れそうだ。
スイカの水分が、俺の膀胱にたっぷりたまり、放出してくれと言わんばかりに、尿道を圧迫してくる。
小便がしたいと、声に出して伝えたいが、俺は千秋のペニスを咥えていて、どうすることもできない。
千秋の腰の動きが止まった。俺の異変に気付いてくれたのだろうか。
俺も自分の舌を動かすのを止め、必死で千秋のペニスを抜こうと努力した。
だが、千秋は俺にペニスを放してくれない。俺も口から千秋を抜くことができない。
このままでは、千秋の口の中に放尿してしまう。
ふと、川のせせらぎが聞こえてきた、耳元で響くように、水が強迫してくる。
もう、だめだ。

 ダムが決壊するように、俺は意識を一瞬だけ手放してしまった。
ジョワっという、勢いよく放水される音が聞こえた。
千秋は驚くでもなく、俺のペニスから口を離し、そしてヘラヘラ笑い始めた。
小便が止まらない。勃起して出づらくなった尿が勢いよく天に放たれ、そして俺の腹の上に降ってきた。

「漏らしたなー!」
「わるい、出ちまった」
「言えよ、ちょっと飲んじゃったしょや」
「言えなかった」

 俺は横たわったまま放尿を終え、心地よい気分になった。
小便でびしょびしょに汚れた俺の上に、千秋は寄りかかってきた。
体を重ね合わせ、俺の腹と千秋の毛皮が密着し、得体の知れない液体の感触がする。
においはほとんど無いし、生暖かさだけが快楽と共に、そこにあった。

「いまから、本番」
「なにが? おわりじゃなくて?」
「終わらせないよ」
「段々、腰が痛いんだけど?」
「手馴れてると思ったけど、やっぱり初めてでしょ。 これから、試しに俺を犯してみようぜ」
「……は!?」

 千秋は俺に抱きついて、そのまま寝返るようにクルっと回った。
ちょうど、千秋が下で、俺が上になった。
千秋の口から、タバコの臭いがする。
俺はなすがまま、されるがままになって、千秋に自分の体重をあずけていた。

 千秋は右手で、なにやら手繰り寄せた。
放り出された、空のタバコの箱だ。
そこから、薄っぺらい何かを、手馴れた手つきで取り出した。

「付けるの忘れるところだった」
「何? それ?」
「コンドーム」

 この道具の名前だけは知っていた。避妊の為の道具なのも知っていた。
でも、それがこんな身近なものだと知らなかった。初めて見た薄っぺらい道具。

「俺がつけるのか?」
「そう」

 千秋は驚くほど素早く、俺のペニスに薄いフィルム状の膜を貼り付けた。
俺の肉棒は根元までピッタリ包み込まれた。
ややきつい気がするが、おかげで余計に敏感になっている気がする。
初めての感覚だ。

「ちょっとまて、どうするんだ」
「いれるの」
「どこに?」
「どこにって、俺は男なんだから、入れる場所はひとつしかないから分かり易いでしょ」
「待て、理屈は分かる……」
「やってみてよ、はやく」

 千秋は俺を抱き寄せ、コンドームに包まれた俺の肉棒を、穴に押し当てた。
無理やりねじ込むような印象だったが、思いのほか簡単に肛門の中へ吸い込まれそうだ。
俺はしり込みして、腰が引けた。

「汚くないのか?」
「さっきちゃんと浣腸したからきれいだよ」
「キレイもクソもあるか。 尻の中にチンコっていう事自体、常識的に……」

 俺は千秋を貫いていた。
耐え切れなかった。こうするしか道は無かった。
波打つヒダが、俺を絞り上げていく。
俺は動けなくなっていた。身震いする。
千秋はかすかに呻いた。 苦しいのか、気持ちが良いのか。

「どう?」
「……」
「さすがに、いきなりはちょっと痛いかも」
「……あ、う」
「悪くないでしょ。お尻の穴も」

 俺は再び体が熱くなり、意識が混濁してきた。
千秋を力任せに抱きかかえて、ただ、ケモノの様に、一定の動きを繰り返し始めた。
何も聞こえない。ただ脳天に星の光を感じていた。
千秋は、少し驚いたようだったが、やがて、声をあげてあえぎ始めた。

 いくほど時間が経っただろう。
俺はほぼ自分の欲望に赴くまま、快楽の海の底にいた。
ふと物音がしたような気がした。
見上げると、見慣れた誰かの気配があったが、それが誰かは分からないし、そんなことはどうでも良かった。
ときおり、罪悪感や背徳感が、意識の水面へと呼吸を求めて、自分を目覚めさせようと必死でもがくが、
結局のところ、自分はただの雄のケダモノで、白濁した煩悩を肉棒の先から放出するまで、ヒトではなかった。
先ほどの人影もいつのまにやら消えており、おそらくは気のせい、羞恥心が作り出した想像の産物。
爆発したような感覚で、急に体中に寒さが戻った。
俺は意識を取り戻し、千秋の尻からペニスを抜いた。
千秋の肛門は何度か痛々しくヒクついていた。痛くないのだろうか?

「けっこう激しかったな、お疲れさん」
「俺は……」

 コンドームの中にはミッチリと濃い精液が詰まり、ペニスからぬきとると、てらてらと流れ出し砂利の上に落ちた。
気が付くと朝日が東の空から顔を出し、景色に色が戻ってきた。

 俺も千秋も、ベタベタに濡れている。
そのまま川に浸かることになった。
念入りに体から汚らわしいものを洗い流す。
友人という線を越えてしまった、この忌まわしい日の思い出を全て。


「よし、今日も張り切って仕事だ」
「……」

千秋は気分の切り替えが早すぎる。
子供のような無邪気な振る舞いも、もしかしたら一番大人びている部分かもしれない。
自分はそんなに簡単に、明日を受け入れることはできない。
おそらく俺は、今日の労働をサボって、一日中自分の殻に閉じこもらなければ、精神を回復できない。
腰の痛みも。
無常にも快晴の空を太陽が高々と昇っていった。


☆ ☆ ☆

 俺が現場に復帰した頃にはもう、三太郎は既にいなくなっていた。
俺は散々人間の棟梁に罵られたが、半分は聞き流していた。
獣人は頭が悪いふりをしていれば良い。

 千秋が三太郎に関してかなり心配そうにしており、いつもの元気が無い。
行方不明になっている、とのこと。
どこへ行ってしまったんだろう?
本当に出稼ぎに行ってしまったのだろうか?

 俺はこれから、三太郎との話と、千秋との体の関係、二つの秘密を背負うことになるんだ。
三太郎のことについて俺は何も話さない。
千秋のことは、口が裂けても、誰にもいえない。

 そのうち、働いて疲れて、飯でも食ったら忘れるだろう。
秘密なんて、そんなもんだ。



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最終更新:2009年07月05日 01:07
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