牙スレ発獣人小説 @ ウィキ
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牙スレ発獣人小説 @ ウィキ
ja
2018-09-04T02:46:24+09:00
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キャラクター
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/45.html
しゃーん
2018-09-04T02:46:24+09:00
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an efficiency test
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/44.html
アオイは忌々しげな表情で、保健所からあてがわれた特注バイクのスロットルをふかした。
自前で買った合法のバイクと違い、保健所に属する兵の中でも、一握りのエリートにだけ与えられる、特注のものだ。
彼女が保健所から受け取ったものの中で、唯一気に入っているものでも有る。フルスロットルで飛ばすと、風と一体化したような爽快感を得られる。
獣人の駆除の際にしか使用許可を得られないのが難点だが、このバイクのお陰で獣人の駆除もまあまあ楽しめるようになってきた。
同僚の中には、たかが獣人を連日殺し続けた程度で心を病み、博愛主義に目覚めレジスタンスに参加しだすものまでいたが、彼女には理解できない話だった。
そりゃ確かに肉体労働が多いし、嫌な上司だっているが、害虫駆除の業者と何が違う。奴らはゴキブリみたいなもんなんだから。
彼女は別段、仕事が自分に向いてないとか、職場が嫌だとかのストレスを抱えている訳ではないのだ。
彼女を不機嫌にさせる最大の理由は、マックススピードで飛ばす特注バイクにさえ、難なく追従してくる黒い影だった。
後ろをちらりと振り返ると、銀色に光る機械の腕と、センサーの内蔵されたレンズを片目に嵌める、半獣半機械のバケモノがいた。
獣人は本来、もっと人間に近い体型であるが、後ろのバケモノは普通の獣人に比べ、手足が原型の動物に近い形状で、より攻撃的で運動能力の高い姿をしている。
非常に密度が高く、バケモノ染みた力を持つ人口筋肉を、機械の頭脳が弾き出した演算によって、一切の無駄なく使う事で、特注のバイクにさえ追いつく俊足を生み出している。
それでいて、細かな肉体の操作による小回りは、バイクなどとは比べ物にならない。
――キィィィッ!!!
アオイがこれ見よがしにドリフトをして、急カーブを曲がって見せるが、整備すらされていないダートを、後ろのバケモノは難なくついてくるのだ。
(クソ犬の分際でやるじゃねーのよ)
ヘルメットの中で舌打ちしながら、絶妙なバランス感覚で器用に曲がるフェンリルを見る。あれは確かに、頭の中まで機械でなくては出来ない動きだ。
悔しいが、ただのケダモノではない事を認めざる得ない。バイザーに示される目的地までの距離を確認しながら、彼女は急ブレーキをかけ、一旦バイクを止めた。
バケモノはしなやかな体の柔らかさ
2009-07-05T01:05:19+09:00
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Nocturne
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/43.html
-[[前>invisible cage]]
夕暮れの屋敷に今日も美しいピアノの音色が響いていた。
伸びやかな旋律は時をゆったりと遅らせるように繊細な言の葉を紡いでいく。
物悲しいト短調、力強さと躍動。右手と左手の調和。ノクターン。
「だれ?」
純金の間接照明に暖かな明かりが灯される。
少女の声に呼び止められて、奏者は演奏を収束させた。
唐草模様の極彩色の絨毯の上に象牙製のグランドピアノ。
奏者は、泥で汚れたシャツをぴっちりと太った体に張りつけた、身なりの汚い狼獣人。
「申し訳ありません、お嬢様……」
召使として雇われた獣人の男は、おずおずと立ち上がり、申し訳なさそうに頭を下げた。
垢と埃にまみれた様な毛皮がみすぼらしい、醜い獣人。
「その、こんなに早く帰ってこられるとは……」
「演奏を、続けなさい」
薄桃色のワンピースを着た幼い少女は、その体に似つかわしくない口調で言った。
獣人は、少女の目線を気にしながら、ゆっくりと再びピアノ椅子に腰を下ろした。
裸足の肉球がペダルにかかると、静かに曲が始まった。
太くて粗暴なはずの指が、白と黒の鍵盤を跳躍していく。
巨大な楽器から自然に音楽が流れ出だしているような、巧みな表現力だった。
獣人は夢中で開かれた楽譜を目で追っていた。
美しい和声に酔いしれることもなく、必死に弾きこなしている。
あわただしく尻尾が左右に動き、肩が上下する。
なぜ、こんな獣人がピアノを弾くことができるのだろう。
なぜ、鍵盤を見もせずに演奏できるほどの腕があるのだろう。
「もういい、演奏をやめて」
「すいません」
「いますぐ、出て行って!」
獣人は、慌てたように立ち上がり、そして部屋を駆け出していった。
ふたたび静寂の帳が下りると、柱時計の鐘が厳かに唸りだした。
少女は溜息をつき、窓を開け放った。
獣人の汚らわしい臭いを一刻も早く部屋から追い出したかった。
初夏の夜風が腰まである艶やかな黒髪をたなびかせる。庭の薔薇が香ると、少しずつ平常を取り戻していった。
全ての謎が解けた。
最近、弾きもしないピアノを突然褒めてもらえるようになったこと。
欲しくもない楽譜を何度も買い与えてくれる父親。
そしてほどなく、上達
2009-06-14T02:18:06+09:00
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Yellow Lightning
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/42.html
人間が偉大で、獣人が下劣。そんなわけあるか。
小柄な猫獣人の少年は、万年筆を胸ポケットにしまった。
たとえ蔑まれる立場の獣人でも、こうやって背広で身を固めて、毛をちゃんとしてハットをかぶれば街を歩ける。
すれ違う人がたまに、俺が獣人だと気付くことがある。
怪訝な失礼な顔をするが、とくに咎められることもない。
一般庶民は事なかれ主義。人間様もただの臆病者ってことだ。
「だからさ、別に獣人だから目立ってるわけじゃないんだぜ?」
「ちがうの?」
「おまえの背が低いこと、それと、その馬鹿みたいにハデな服着てくるから目立つの」
「うるさいぞデブ!」
後ろで暑そうにしている熊獣人が、大きな旅行鞄を引きずる。
中には何も入っていない。
「ったく、恥ずかしい。なんだよその黄色いスーツは! ふざけた帽子も! どこのお笑い芸人だっつーの」
「だーから、こうやって貴族ぶって威圧しないと街を歩けないだろ」
「おまえ頭悪い。そもそもこんな暑い中、そのかっこうじゃ暑苦しいんだよ!」
間延びするおまえの声のほうが暑苦しいわ、くまー!
そして俺は首根っこを捕まれて、旅行鞄の中に押し込められる。
猫詰め鞄を引きずる熊。
「だせ」
「うるさい」
「ダメかよ、高かったんだぞ、この服!」
「俺たちは獣人なんだから、汚いシャツを着て荷物を持っていれば怪しまれないよ」
「なんでだ! 獣人は奴隷扱いされるんだぞ。街を歩いてたら保健所行きなんだぞ??」
「そう。だから、人間の奴隷のふりをするんだよ。荷物引きずっていれば奴隷に見えるでしょうが」
「断じてゆるさんぞ。奴隷になんかなるもんか」
「馬鹿だ……獣人は捕まれば保健所行きだが、獣人の奴隷はひとさまの所有物だから捕まらないの、わかるか?」
「わからない! うるさい! 俺は、奴隷になんかなるもんか」
「奴隷になるなんて言ってねぇよ。奴隷の ふ り をして歩くんだっての……」
埒が明かないので、黙ることにした。
路地裏を抜けると陸橋がある。日用雑貨店の向かいに銀行がある。
西支店は警備が薄い。建物も小さめ。客は年寄りばかり。
僻地で、人通りも少ない。ただただ、目の前の道路が無駄に幅広いだけ。
長い横断歩道を熊獣人が鞄を引きながら歩く。
あたかも、ご主人様に荷物運びを命じられているかのように見
2009-06-14T02:06:38+09:00
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undivided summer
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/41.html
登場人物
・俺(名前が分からない)
・千秋
・三太郎
※獣八禁ホモエロ注意、放尿有り、物語性ほぼ無し、ヤるだけ
☆ ☆ ☆
網に入れたスイカを二つ川に放り込んで、灰色の獣人は桟橋に腰を下ろした。
透明に輝く水面に両足を浸す。 足の裏に砂利を感じた。
夏の夕日が煙突の影を長く映し出す。もう星が出ている。
深呼吸すると、トウモロコシのよく焼けた匂いが漂ってきた。
「サボんなよ」
「サボってないよ」
「じゃあ、ぼーっとすんな」
「わるいか?」
水面に千秋のにやけた顔が映る。
予想はできていたが、そのまま俺は突き落とされて、ずぶ濡れになった。
カーキの作業服の中までぐっしょり濡れて重い。
鼻に水が入り粘膜がツーンと痛くなった。
「きさま!」
「手が滑ったのよ」
「ったく冷てぇな」
「はやくスイカ持って来いよ、肉がなくなっちまうぞ」
千秋は太い尾をゆっくり振りながら行ってしまった。
千秋に向かって水を掛けようと思ったが、やめた。
ランニングシャツから筋肉質の腕が逞しく生えて、黒くボサボサした毛皮が夕闇に溶ける。
小柄だった千秋が、いつのまにやら俺より長身に、俺より男らしくなっていく。
悔しいような気持ちを抱きながら、しばらく千秋の背中を見つめていた。
川から這い上がると、靴の中で泡が吹き出るような不快な感覚が伝わってきた。
明日も労働だし風邪を引く訳には行かないので、なんとかして着替えを探さねば。
テントの前まで戻ると、網焼きの前で三太郎が芋を貪っていた。
太り気味の彼にとって夏は灼熱地獄のようで、大抵上半身裸でいる。
鼻面に汗を浮かせながら、せっせと芋を焼き、手づかみで口に運んでいる。
せめて、火が通ってから食べるべきだと教えてあげた方がいいだろうか?
あまりに三太郎が一心不乱なので、俺は話しかけずにテントに入った。
「千秋、シャツは?」
「まずは脱げと」
「着替えたいんだけど?」
千秋は伸びをすると、ナップサックの中から薄汚れたタオルを取り出し俺に放り投げた。
タオルは白くなかったが、ちゃんと乾いている。
かすかに、千秋のにおいがした。
「おま、マジでびしょびしょじゃんか! テントの中まで湿気っぽくなるわ」
「誰のせいだよ!
2009-07-05T01:07:38+09:00
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JUDGMENT DAY
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/40.html
huhuhu
2018-09-04T04:01:31+09:00
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Sköll's Episode#3
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/39.html
-[[前>Sköll's Episode#2]]
例の獣人マニアが研究所に来なくなってから3日目を迎えた。
今は忙しい時期ではないので奴がいなくてもそれほど困らないが、嫌な雰囲気ではある。
ウザい人は、その場にいないだけでもウザいのだ。
相方は相変わらずスコルに不必要な単語を教えて遊んでいる。
べつに研究室に自分達二人しかいない時なら、どんなに卑猥な言葉を吐こうが気にはならない。
しかし、あいにく昨日から女性研究員が一名、助っ人としてやってきたので気が気でない。
相方のエロ言語の複雑化が進み、スコルに複乳萌えを説明するに至っている。
絶対に、変な目で見られている自信がある。
女性研究員はレラと名乗った。
聞き覚えの無い名前だった。女性そのものが研究所界隈では少ないので大抵は名前だけでも覚えているものだ。
どこの研究所から赴任してきたのだろう?
背が高く線の細い女性だが、なにより目を引くのが機械的で大きな眼鏡だった。
眼鏡はツルが太くこめかみの部分で頭部と融合しており、彼女が「改造」された人間であることを物語っている。
眼鏡と白い皮膚の接続部分を隠すように長く艶やかな黒髪を垂らしている。
レラはスコルの記憶演算システムの制御を担当しにやって来た。
ついでに保健所との連絡も彼女にやってもらうことにしてある。
この研究所はもともとバイオ系の研究開発をしており、機械系、特に情報処理分野に長けた人物が少なかった。
まして今時期はほとんどの研究員が休暇をとっており、一時的に人手不足となっている。
彼女は機械。機械は休まない。
休む間もなくタイピングの乾いた音が響く。
無表情のままレラは画面をみつめ、目にも留まらぬ速さでキーボードを操っていた。
不意に画面が暗転し、彼女の顔と自分の顔が映り込んだ。
「いま、私を見てた」
驚いて目をそらすと、彼女が初めてクスリと笑った。
かたわらで相方のニヤニヤした視線を感じる。
「見ての通り、私は半分機械なの。 でも半分は人間だから」
「ごめん」
「いいの。ここは居心地がいい。ここには人間がいる」
情報系の研究員はほとんど彼女のような半機械人間ばかりだと聞く。
人間の脳よりも機械の回路の方が都合がいいのだ。
体を改造し機械として生まれ変わ
2009-07-05T01:04:40+09:00
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feat.Advent
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/38.html
-[[前>feat.Advent(passion)#3]]
寒い。
そう、思った。
薄暗い部屋の中はどこもかしこも無表情な金属に覆われている。まるで全てを拒んでいるような、そんな圧迫感。嫌な感触だ。
そこまで考えたところで腹部に鋭い痛みが目覚めた。腹を食い破られたかのような激痛が意識をあるべき覚醒状態に押し戻す。
「……アオイ、起きたか?」
後ろから聞こえたおずおずとした声の主は見なくても分かっている。私の「弟」。クソ忌々しい獣人どものリーダー。
「分かってるなら聞くな」
「うん」
声聞の声が暗闇に吸い込まれていく。なぜかそれに神経が逆撫でされて、私は憚ることなく舌打ちした。
「辛いか?」
「辛いに決まってるだろう。バカか?」
「そうだね。そうだ」
頼みの防護服は脱がされており、今の私は薄布一枚だけで床に転がされている。手首と足首も丁寧に縛られていて、自分ではまず解けないだろう。おまけに腹の傷がじくじくと痛む。こんな状態の人間に辛いかと聞いてどうする。バカが。
獣人の前で芋虫みたいに這うなんて屈辱だったが、しかたがない。なんとか体を捻って声聞の方を向く。暗い部屋の中、緑のカプセルをバックに浮かび上がる白い影がそこにあった。私の視線に気づいたのか、声聞はカプセルを指さして説明する。
「これが獣人培養装置。俺たちを産み出した装置だ」
「知らないはずがないだろう」
「……そうだったな」
声聞はそう呟くと、座っていた椅子を立ってこちらに来た。
「何をする気だ?」
「傷の手当て。痛むなら鎮痛剤を塗る」
「いらん」
「でも、辛そうだ。血の匂いもする」
「いらんと言っているだろう! 獣人が私に触るな!」
精一杯怒鳴ったつもりだったが、口から出た声はだいぶ弱々しかった。私の態度に何の反応も示すことなく、声聞はすとんと椅子に座る。それがまた癇に障る。この苛立ちを誰かにぶつけることもできず、私は縛られた手で思いきり床を殴った。
「少し、緩めようか」
「あ?」
「その縄。痛いか?」
「……そんなことをするぐらいだったら解け」
「そうしたら、アオイはどうする?」
「お前を殺してやる」
「なら、駄目だ。俺は約束を守らないと」
「約束?」
「そうだよ、約束。俺は約束を守らないといけないんだ」
闇の中で
2009-07-05T01:00:26+09:00
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feat.Advent(passion)#3
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/37.html
-[[前>feat.Advent(passion)#2]]
あえいでいた。こわかった。かなしかった。
それがいた。
それはふわふわしていて、おかしかった。
たりなかった。むなしかった。とられちゃったみたいだった。
それははじめてだった。
ふれた。ぼやけていた。
かなしいみたいだった。
よく、にていた。
フェンリルを退けた声聞はいったん第六区域に戻ることにした。残してきた六道や獣人たちのことも心配なのもあったが、何よりも手持ちの武装を使い切ってしまったのが大きい。今敵に見つかってしまったらそれこそひとたまりもないだろう。かじかんだ指先をポケットの中に入れると、丸く硬い球体の感触がある。随分過酷な扱いだったと思うが、割れてもいないし、中身も凍っていない。単体ではほとんど意味を為さないとは言え、まだ残っているというのはありがたかった。
「急がないとな……」
長時間冷気に晒された体からは体温がかなり奪われている。先程吹雪が止んだのはありがたかったが、それは同時に敵に発見されやすくなったということでもある。どちらにしろ急ぐしかないのだ、と声聞はひたすらに足を動かした。
センサーが警告を発したとき既にアオイはライフルを構えていた。雪原の向こうで動いている白い物体。間違いなく標的だ。
致命傷を与えない箇所をバイザーが計測しロックオンする。脚。少し上方に角度を修正したい欲求を覚えつつも、アオイは正確に照準を合わせ、引き金を引いた。
「あぐッ!」
何が起こったのか理解する間もなく声聞の脚が弾けた。撒き散らされた血と肉が雪に赤い牡丹模様を描く。地面に転がった声聞の目に映ったのはこちらにゆっくりと近づいてくる黒い人間の姿だった。
神経を直接ドリルで掘り返されているような激痛を声聞は荒い息だけで凌いだ。銃で撃たれたらしい脚はもう使い物にならない。這って逃げようかとも思ったが、それが無為なのは幼子にも理解できる。牙を噛みしめ、声聞は向こうに見える狙撃者を睨みつけた。
銃をおろし、アオイは悠々と声聞に近寄った。見たところ相手は手に何も持っていない。拳銃ぐらいは持っているかもしれなかったが、そんなオモチャは防護服相手にクソの役にも立たないのは先程の戦闘で証明されている。
「生きてるか、クサレインポ野
2009-07-05T00:59:19+09:00
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Sköll's Episode#2
https://w.atwiki.jp/kibasure/pages/36.html
-[[前>Sköll's Episode#1]]
「おまっ、ドアノブまでエタノール消毒とか、どんだけ嫌いなんだよ」
「獣人好きは感染症かもしれないだろ、獣人病がうつったら困る」
「毛嫌いしすぎ」
たしかに、これはやりすぎかもしれない。
まるで子供のイジメみたいだ。嫌いな人を菌呼ばわりし本当に消毒する。
いたしかたない、嫌いなものは嫌いなのだ。
「ほら、サンタローがこっち見てるぞ」
「あれはスコルだ。フェンリルじゃない」
「おっと、間違えた。 犬ヅラはどれも同じに見えて困る」
「そもそも色が違うだろう」
「いちいち覚えてねぇよ、獣人の毛の色なんて」
無機質な怪物は、無表情で無垢な表情をしていた。
感情が全く失われると、動物は慈悲深い微笑を浮かべるようになる。
なるほど感慨深い。
スコルは、記憶と言う苦しみから逃れ至高の幸せを感じているようだ。
「犬の世話はあんたの担当な」
「なんでだよ、いやだね」
「今はまだプラグで繋がってるから、面倒ならPCの方から強制終了にすれば良いよ」
「おい、それじゃスコルが死んじゃわないか?」
「死なないよ、生命維持は全て機械まかせになってるから」
「だーめ、全部が機械なわけじゃないんだから不死身じゃねーし。 せっかく苦労して作ったのに殺してたまるかっ」
「ずいぶん愛着が湧いてるじゃん、病気がうつったのか? あいつから」
相方は黙り込んだ。
気持ちは分からないでもない。
スコルの外形のデザインを決めて設計したのは相方だ。
徹夜で作った「作品」を壊されるのは、芸術家である相方には耐え難い屈辱。
とはいえ、行く行くはスコルの量産製造が始まる。
そうなればスコルへの愛情も徐々に薄れていき、我々は新しい課題に追われるようになるだろう。
今はまだ、スコル完成の余韻に浸るのも、まあ悪くはないかもしれない。
『なにか、ごようですか』
「なんでもない、スコルは休んでいなさい」
『御意にございます』
スコルはしばらくこちらを見つめた後、目を閉じた。
檻の隅のほうに座り、静かになった。
「ずいぶん流暢に言葉を話すもんだな」
「そりゃ、獣人の公用語は俺らと同じなんだよ、忌まわしいことに」
「違う違う、そうじゃなくて、こいつ、舌が無いんじゃなかったっけ
2009-07-05T01:03:53+09:00
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