■ION Nettop DP305 (2010/04/18)
1. はじめに
1.1. 背景
Apple製品はデザインに優れ、洗練されている、また教育や音楽、グラフィックスの専門分野にも強く、人気があるといったイメージが高い。これはブランドイメージ戦略の賜物であるが、一方で価格も高いイメージが浸透している。しかしながら、本当にMacは高いのだろうか?
Mac Proはグラフィックスや音楽のクリエイターの使用にも耐えうるワークステーションコンピュータであり、性能はもちろんのこと、エンタープライズ向けにも使用される信頼性の高い製品を採用している為、価格も非常に高い。たが、Mac Proは家電量販店で販売されるPCやホワイトボックス系PCとは根本的にコンセプトが異るもので、それらとの比較から値段が高いと結論づけるのは意味がない。
また、Intelがネットブック/ネットップといわれるネットサーフィンを中心としたPC分野を開拓し、そこで採用された省電力CPUのAtomを採用した製品が普及してからは、Atom製品最大の特徴の安いといったイメージに感化され、Mac miniは相変わらず高い、コストパフォーマンスが悪いなどといった評判をよく耳にする。
管理人は、
「Mac miniを自作する」を通し、そのコンパクトなデザインからくる制約下において、パフォーマンスの高い部品を無理なく搭載し、省電力、静音のバランスを絶妙に取った優秀なPCとしてMac miniは完成されていると実感した。
もしMac miniの値段が高い、コストパフォーマンスが悪いと感じているのであれば、本項を一読し、なんとなくといったイメージや雰囲気からではなく「何をもって値段が高い(と感じる)のか」、「何と比較してパフォーマンス低い(と感じる)のか」を冷静に考えてもらいたい。
1.2 ONKYO DP305
Intel Atomプロセッサを用いたION プラットホームのONKYO製ネットトップDP305を入手した。DP305はAtomの低発熱、省電力を活かしSHARPの名機
X68000のマンハッタンシェイプを彷彿させる独特のデザインをしている。また、縦置きや横置きだけでなく、標準でVESA規格のディスプレイマウンタが付属し、ディスプレイ裏に設置したりとフリーマウント設計でMac miniに勝るコンパクトな作りになっている。
DP305の後継機種として、Mac miniを意識したデザイン性の高い
DP312が発売された。
imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
ただし、
仕様スペックを見ると、EMT64非対応のAtom N270を採用しているにも関わらず最大メモリが8GB(4GBx2)となっている。CPUが64bitに対応していないため、64bit版のWindowsはインストールすらできず、4GB以上のメモリを搭載しても扱えないはずだが、仕様表記は誤解を招き非常に不可解である(32bit OSでは4GB以上のメモリを搭載しても、OS管理領域外となってしまい使用できず、RAMディスクとして使うぐらいしか用途が見当たらない)。
ONKYO DIRECTのサポートに確認をしたが、製品仕様のシステムメモリ最大8GB(4Bx2)の説明は物理的に4GBメモリモジュールを2枚搭載したら8GB搭載できるということであり、CPUは32bitのみの対応の制約により、実際に利用できるメモリ領域はやはり4GB(厳密にはOS管理領域を除く3.25GB)までであるということであった。したがって、メモリの表記については、大変誤解を招く表現のなので、関係各所と調整した上、表記を改める予定との回答を得た。
なお、Atomが64bitに対応した特注版かどうかも期待して確認をしたが、そのようなことは無く、(CPUが対応していない為、64bit OSは本来インストールできないが)仮に64bit OSを導入できても、OS変更はユーザの自己責任作業になり、発生した不具合についてサポートはしないということでもあった。
■2. Mac miniとDP305の比較
2.1 価格比較
機種 |
動作周波数 |
プロセッサ |
コア数 |
FSB |
2次キャッシュ |
64bit対応 |
VT-x対応 |
メモリ |
HDD |
ODD |
電源 |
値段 |
MB463J/A, MB464J/A |
2.00 GHz (266x7.5) |
Core2Duo P7350 |
2(2T) |
1066MHz |
3MB |
◯ |
◯ |
1GB |
120GB |
◯ |
110W |
¥69,800- |
MC238J/A, Early 2009 CTO |
2.26 GHz (266x8.5) |
Core2Duo P8400 |
2GB |
160GB |
¥62,900- |
MC239J/A, MC408J/A |
2.53 GHz (266x9.5) |
Core2Duo P8700 |
4GB |
320GB |
¥84,900- |
Late 2009 CTO |
2.66 GHz (266x10) |
Core2Duo P8800 |
4GB |
320GB |
¥100,020- |
ONKYO DP305 BTO |
1.60 GHz (133x12) |
Atom 230 |
1(2T) |
533MHz |
512KB |
X |
4GB |
320GB |
50W |
¥55,800- (内訳) PC ¥49,800 MEM +¥4,000 HDD +¥2,000 |
2.2. ベンチマーク実施環境
項目 |
Mac mini MB463J/A Early 2009 |
ONKYO DP305 (BTO) |
ファームウエア |
MM31.0081.B06 (EFI 1.2) |
BIOS Ver. 0103 (AMIBIOS, PEGATRON OEM) |
CPU |
Core 2 Duo P7350(2.0GHz/3MB/2C/2T/TDP25W) |
Atom 230(1.6GHz/512KB/1C/2T/TDP4W) |
メモリ |
1GB(1GBx1) DDR3-1006 |
4GB(2GBx2) DDR2-800 [BTO] |
HDD |
120GB Hitachi HTS543212L9SA02 |
320GB WesternDigital WD3200BEVT-00ZCT0 [BTO] |
チップセット |
NVIDIA GeForce 9400M (MCP7A) |
NVIDIA ION (MCP7A) |
グラフィックス |
NVIDIA GeForce 9400M Core 450MHz, Shader 1100MHz |
NVIDIA GeForce 9400M G Core 450MHz, Shader 1100MHz |
出力ポート |
mini-DVIx1, Mini-DisplayPortx1 |
HDMIx1 |
光学ドライブ |
スロットイン式スーパーマルチドライブ(SATA) PIONNER DVR-TS08 |
スロットイン式スーパーマルチドライブ(USB2.0) TEAC DV-W28SS-R(着脱可能) |
LAN |
論理層 Gigabit Ethernet(チップセット内蔵) 物理層 Realtek RTL8211CL |
無線LAN |
IEEE 802.11b/g/n Broadcom BCM4238 |
IEEE 802.11b/g Realtek RTL8178SE(for OSX 10.5, 32bit only) |
オーディオ |
7.1 HD Audio Realtek ALC885 |
5.1 HD Audio Realtek ALC662 |
USB端子 |
5(背面x5) |
5(背面x4, 前面x1) |
メモリカードスロット |
ー |
(前面)5in-1 MS/MSPro/SD/SDHC/MMC |
その他I/F |
(背面)ヘッドホン端子x1,マイク端子x1, スピーカー内蔵, S/PDIFx1, IEEE1394bx1, Bluetooth2.1+EDRx1 |
USBキーボード、マウス付属 (背面)S/PDIFx1(ライン兼用) (前面)ヘッドホン端子x1, マイク端子x1, eSATAx1, MCE IR Reciver |
寸法 |
W165.1 x D165.1 x H508.8mm |
W18.0 x D17.7 x H40.0mm (横置き時) |
電源 |
110W(大型アダプタ) |
50W(小型アダプタ) |
重量 |
1.31kg |
1.2kg |
OS |
Mac OS X 10.6.3 (64bit kernel) |
Mac OS X 10.6.3 (64bit kernel) + Chameleon 2.0RC-4 r684 OriginalBuild + FamkeSMC V2.5/Windows 7 Home Preminum 32bit |
00:00.0 Host bridge [0600]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0a82] (rev b1)
00:00.1 RAM memory [0500]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0a88] (rev b1)
00:03.0 ISA bridge [0601]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0aad] (rev b2)
00:03.1 RAM memory [0500]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0aa4] (rev b1)
00:03.2 SMBus [0c05]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0aa2] (rev b1)
00:03.3 RAM memory [0500]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0a89] (rev b1)
00:03.5 Co-processor [0b40]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0aa3] (rev b1)
00:04.0 USB Controller [0c03]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0aa5] (rev b1)
00:04.1 USB Controller [0c03]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0aa6] (rev b1)
00:06.0 USB Controller [0c03]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0aa7] (rev b1)
00:06.1 USB Controller [0c03]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0aa9] (rev b1)
00:08.0 Audio device [0403]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0ac0] (rev b1)
00:09.0 PCI bridge [0604]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0aab] (rev b1)
00:0a.0 Ethernet controller [0200]: nVidia Corporation MCP79 Ethernet [10de:0ab0] (rev b1)
00:0b.0 SATA controller [0106]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0ab9] (rev b1)
00:0c.0 PCI bridge [0604]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0ac4] (rev b1)
00:10.0 PCI bridge [0604]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0aa0] (rev b1)
00:15.0 PCI bridge [0604]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0ac6] (rev b1)
00:16.0 PCI bridge [0604]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0ac7] (rev b1)
00:17.0 PCI bridge [0604]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0ac7] (rev b1)
00:18.0 PCI bridge [0604]: nVidia Corporation Unknown device [10de:0ac7] (rev b1)
03:00.0 VGA compatible controller [0300]: nVidia Corporation Unknown device [10de:087d] (rev b1)
04:00.0 Network controller [0280]: Realtek Semiconductor Co., Ltd. Unknown device [10ec:8199] (rev 22)
2.3. ベンチマーク結果
・DP305の10.6.3(64bit kernel)での動作
CPU |
動作周波数 |
電力 |
価格 |
iBench 1.1.2 (64bit) Score |
電力パフォーマンス[Score/Watt] |
価格パフォーマンス[Score/Yen] |
Core2Duo P7350 |
2.00 |
110W |
¥69,800- |
2.79 |
0.0253(-) |
0.00003997(-) |
Core2Duo P8400 |
2.23 |
¥62,900- |
3.15 |
0.0286(1.13) |
0.00005007(1.25) |
Core2Duo P8700 |
2.53 |
¥84,900- |
3.52 |
0.0320(1.26) |
0.00004146(1.03) |
Core2Duo P8800 |
2.66 |
¥10,0200- |
3.71 |
0.0337(1.33) |
0.00003790(0.94) |
Atom 230 |
1.60 |
50W |
¥55,800- |
0.67 |
0.0047(0.23) |
0.00001201(0.30) |
* ()はCore2Duo P7350を1とした場合
2.3. ベンチマーク考察
Mac mini Early 2009(MB463J/A)を基準とし、DP305(Atom 230)の性能をiBenchの結果で比較すると、CPU演算能力は1/4、ワットあたりのパフォーマンスは1/5、価格あたりパフォーマンスは1/3に留まる。ワットパフォーマンスが一番高いものは、Core2Duo P8800を搭載したLate 2009 CTOであり、プライスパフォーマンス(価格あたりのパフォーマンス)が一番良いものはMC238J/Aである
コストパフォーマンスが一番良いものはどれになるかということだが、用語の定義を再確認すると「コストパフォーマンスが高い」という言葉には2つの意味がある。本来、「費用対効果が高い」、つまり、「少ない費用(cost)で高い能力(performance)が得られる」ということだが、「価格のわりにユーザにとっての満足度が高い」という意味もある。そして厄介なことに、満足度には個人差があり、体感的な速さを感じない為、処理能力が上がっているにも関わらず満足できなかった、またある時は、過度な期待をしてしまった為、期待はずれで満足できなかったなど、定量的に比較できない要素が含まれてしまう。
比較の為、価格あたりのパフォーマンスを、便宜的にここでは、プライスパフォーマンスと呼ぶが、DP305のプライスパフォーマンスは、Mac miniと比較すると明らかに低い。ただし、PCに求めるものはユーザによって異なり、コンパクトさを第一とするもの、静音を第一とするもの、使いやすさを第一とするもの、速さを第一とするもの、人それぞれであり、何を求めて購入したかによって満足度合は異なってくる。
したがって、プライスパフォーマンスが低いからといって、コストパフォーマンスが悪いと感じなければ、速さを目的としていた人には期待はずれとなり、コストパフォーマンスが低いと感じてしまう。何より、Atomプロセッサは処理能力の高さを目標として設計されたプロセッサでも無く、IONプラットホームもそうであるからである。
2.4. まとめ
発売時期は異なるがMac mini Early 2009 MB463J/AとDP305の購入時の価格差は14,000円で、価格あたりのパフォーマンスで考慮すると価格差は更に開き46,534円まで拡がる。つまり、Intel Atomプロセッサ自体の価格が安くとも、用途を限定した低い性能であることに変わりなく、プラットホーム全体としての価格が安くない為、結果としてIONプラットホームのプライスパフォーマンスは非常に低い。GPU処理能力に関しても、Mac miniとDP305は同じであるが、GPUが本来持っている能力を引き出そうとするとCPU処理能力もある程度高い必要がある。しかしながら、Atomプロセッサでは明らかに処理能力不足でCPUがボトルネックとなってしまい、グラフィックス性能も低いままになってしまっている。
一方、Mac miniはコンパクトな筺体で、熱設計デザイン(TDP)は25Wという制約の為、モバイル用のCPUを用いているがその処理能力は十分であり、GPU本来のグラフィックス性能も引き出せている。価格および、ベンチマークスコア、何よりコンパクトなサイズから冷静に判断すれば、コストパフォーマンスは高いといえるのは間違いないが、Mac miniは高い、コストパフォーマンスが悪いという評価も後を絶たない。
これは、冒頭に述べたとおりApple製品に対するブランドイメージが大きく影響していると考える。折角Macを買ったのだから、「DTMもDTPもやりたい、HD動画編集したい」など、Macだから得意だろうと考えてしまうのだが、本来それらの処理は非常に高いCPU処理能力を求められる。Windows PCで言うなら、タワー型筺体のデスクトップワークステーションと呼ばれる最新のPCでも処理を持て余す程のもので、快適に作業をしたいのであれば、本来Mac Proで行うべき作業である。それを無理矢理Mac miniで行い、処理が遅い為満足ができず、結果として「Mac miniのコストパフォーマンスは悪い」と筋違いなレッテルを貼ってしまっている。例えるなら、プリウスとフェラーリが高速道路で競争をし、プリウスは遅く、コストパフォーマンスは悪いと言っているようなものである。
そもそもPCの処理能力に見合っていない高負荷作業やディスクスワップが頻発する程メモリ不足になるアプリケーションを用いて、コストパフォーマンスに対しての評価を下すのは誤りである。また、評価項目には筺体のデザインやサイズ、駆動音、消費電力なども追加すべきで、システム処理能力の高さだけを優先するのであれば、制約の多いコンパクトPCを選択する意味はない。また、追加増設となるが、I/O周りを高速化する為にシステムドライブをSSDにする、ディスクスワップを極力発生はせない為にメモリを増設しておくなど、ボトルネックを取り除く作業を行えば高いパフォーマンスを得ることができる。
しかしながら、コストパーマンスが高いということは、初期コストだけでなく、追加投資が少なくて済むということでもある。満足するパフォーマンスを得るべく、本体価格を超えるような価格のメモリやSSDを追加購入する必要があるのは本末転倒であるが、MC238J/Aであればその点も心配はない。
一方で、DP305は、そのコンパクトな筺体、省電力、Mac miniを上回る独自のデザインなど、処理能力以外に多くの特徴がある。メモリもHDDも十分な量であり、用途を考慮すれば追加すべき必要を感じない。仮にシステムドライブをSSDにした所で、CPUとのシステムバランスが崩れてしまい、アンバランスになるだけである。ドキュメンテーション作業やWebブラウズなど動画エンコードを除いた一般的な作業であればDP305でも十分な処理能力があり、CPU処理能力以外を目当てとする人にはとてもコストパフォーマンスが高いPCといえる。
ちなみに、DP305はアウトレット価格になるが送料無料で29,800円(メモリ2GB、HDD160GB、光学式ドライブ無し)と破格な値段で販売もされた。ただし、純正の光学式ドライブの標準価格は10,000円と高額な上、アウトレットでは購入することはできなかった為、統一したデザインを重視する場合、本体よりもむしろ光学式ドライブの方が貴重である。
最終更新:2010年06月05日 03:22