桜場コハル作品エロパロスレ・新保管庫

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coharu

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鎌倉の歴史的風土豊かな街並みも、荘厳な雰囲気の漂う古社寺や史跡も、小学生の胸を感動で満たすにはあまりにも鈍重で古くさい

彼らにとってはそれは近所の駄菓子屋と、そう変わらないのかもしれない
そこには歴史的情緒も文化的価値もなく、ただ彼らの新しい遊び場として、あるいは話題の一つとしての存在でしかない

それでも高徳院の大仏だけは、その新鮮味すら感じさせるほど存在感をもって、彼らに驚嘆と歓喜を与えた
特に怪獣や巨大ロボットに心惹かれる年頃の男子たちは、まるで噂でしか聞いたことのない精緻な機械を見るときのような目で眺めていた
リョウタやコウジも御多分に洩れず、大仏を構成する一つひとつの部品の大きさに嘆息し、大いにはしゃいでいた

「もう、本当に男子って子供なんだから」
ガイドの解説をほとんど無視してはしゃぎ回る彼らを見て、チカはため息まじりに言った

もう少し落ち着いて見れないのかしら、と思った
でもこうして好きな人を離れたところから眺めているのも存外悪くない
そうしていると自然に足元から何か熱いものが込み上げてきた

まだ生理は続いているが、昨日よりはいくぶん体調が良い
天気も良く、秋独特の軟らかな日射しと抜けるような高く青い空が気持ちまで軽くするようだった

チカはふと伺うように隣に目を向けた
今、チカはカズミと肩を並べて歩いている
カズミは周囲の風景の一点を見つめて、淀みなく歩いていた
あるいはその先にある何かを見ているようにも感じられた

少し後ろではユウキとメグミが何やら話をしていて、その顔には絶えず笑顔が浮かんでいた

チカはさっきから、まるで鏡張りの部屋に幽閉されているような不可解な居心地の悪さを感じていた
それが馴染みの薄い鎌倉の匂いのせいなのか、あるいは心にある説明し難い疚しさのせいなのか、チカには分からなかった

「あんなに喜んじゃって……リョウタって本当に単純なんだから、ね?」と隣のカズミに言った

「でも佐藤くんらしい」
「あ……まぁそうだよね」

会話はそこで途切れてしまった
チカはリョウタの話題を出したことを少し後悔した

言葉として出す前は二人の共通の話題として最適だと感じられたのだが、いざ話してみると上手く会話にならなかった
自分のせいなのか、それともカズミが意識的にその話題を避けているのか、会話は中身のない断片的な言葉の羅列になってしまった

二人は黙したまま、硬い石畳の上を肩を並べて歩いていた



古ぼけた旅館に着いたチカたちは貧相な食事や厳格に時間を定められた入浴など、ほとんど雑務といってもいいような作業をこなし、夜をむかえた

ほんの十畳ほどのスペースに六、七人で寝るのはいかにも手狭だが、今の彼女たちにとってはそれすらも何か楽しいことの予兆のように思えた

今、チカは布団に仰向けに寝転がりながら、暗がりにわずかに見える天井の染みをジッと眺めている
そうしていると徐々に暗闇に目が慣れていくのがはっきりと分かった
染みは決して変わることのない運命のように、そこにひっそりと佇んでいた

さっきまで部屋にはリョウタやコウジを含む何人かの男子たちもいて、トランプや雑談に興じていたのだが、教師が見回りを始めたことでお開きとなった

時刻は11時を回ったところだ
さっきまでチカも子供だけでの宿泊に興奮気味だったのだが、消灯と同時に昼間の疲れがドッと出たようで目蓋を重く感じていた

電気が消えた瞬間に体内のスイッチまで切れてしまったような感覚だった
同室の他の子たちも同じようで、話し声はほとんど聞こえなかった


「じゃー、そろそろ修学旅行夜の部を始めますか」と誰かが言った
ユウキの声だ、とすぐに分かった
彼女の声は暗闇の中でやけに大きく響いた

「ユウキちゃん、まだ寝てなかったの?」とチカはユウキの寝ているはずの方向へ問いかけた
正直もう寝たい気分ではあったが、ユウキの意気のある声を聞くと自然に眠気が飛んでいくような気もした

「当たり前でしょ!せっかくの夜なんだから楽しまなきゃ」
ユウキはみんなを円形になるように寄せた

チカはそうして集まった同級生たちの顔を順繰りに見ていった
メグミやナツミは眠たげに目を擦っていた
カズミは相変わらずほとんど表情を変えず、ジッとユウキの方を見据えていた



「修学旅行の夜って言ったら恋バナだよね、恋バナ」と、ユウキはなぜか誇らしげに言った

ナツミはポカンとしていて、メグミは困ったという顔をして、カズミは鉄板のように無表情だった
チカもやはり自分が話すのは気が進まなかったが、普段聞けない話を聞けるのは少し楽しみでもあった

恋の話といっても小学生ではそれほど大層な話があるわけもなく、結局好きな人を順番に言っていくことになった
まずは言い出しっぺのユウキからだった

きっとコウジのことを言うだろうな、とチカは思った
実際その通りだった

ユウキはある時は恥ずかしそうにもじもじしながら、ある時は真剣に、またある時は冗談めかして、コウジと自分の話をした

チカはそんな彼女をかわいらしく思い、またそういう関係を築けている二人を羨ましいと感じた
出来る手助けは何でもしてあげたいという気にさえなった

それと同時に自分を情けなくも思った
ユウキがこうして好きな人との距離を縮めようと懸命に行動しているのに対し、自分はただ森から出てきたばかりの小動物のように怯えて動けずにいる

その事実が一段とチカを苦しめた

ユウキの話が終わり、ナツミの番になった
ナツミは少しも考えたり、躊躇ったりする素振りもなく
「じゃあ僕はリョウタくんが好きかなー」といつもの無邪気そうな笑顔を浮かべて言った

その屈託のない彼女を微笑ましい表情で見ているクラスメートたちとは対照的に、チカはいささかドキリとしていた

ナツミがリョウタの名をあげることは半ば予想していたし、ナツミの「好き」はユウキのそれとは種類を異にする感情であることは分かっていたが
それでもいざそうはっきり言われると驚き、もしかしたら恋愛的な感情も入っているのではないかと不安になった

その後も何人かの告白が続いた
ある子は切々と、ある子は上手くはぐらかしながら、自らの恋を語った

それはチカにとって新鮮な体験だった
自分以外の女の子の別の一面を見れたようで楽しかった

そうしてついにチカの番となった
自分の話を終え、気分的に楽になった友人たちがチカに好奇の目を向けていた

途端にそこはチカにとって居心地の悪い場所となった
散々人の話を聞いておいてズルいとは思ったが、ここでリョウタの名前を出すのは変に憚られた
第一には羞恥があったし、またカズミの存在が抜けないトゲのように気になった

しばらく口ごもったり、うつむいたりした後、チカは結局「まだ好きな人はいない」と言った
周囲から不平が湧き、何人かがリョウタの名前を出して冷やかしてきた

「リョウタはただの幼なじみだし、そういう感情は全然ないよ」
チカはことさら平気を装い、冷やかしに応えた

「本当?」とカズミが言った

他の子たちの茶化すような「本当?」とは全く違い、研ぎ澄まされた刃物のような鋭さをもってチカの心を刺した
まるで何かを念押しするような言い方だった

チカは言葉に詰まり、今自分は重大な間違いを犯してしまったのではないか、というような気持ちになった

カズミの番になったとき、カズミは「トイレに行ってくる」と言うと、暗闇の中をスルスルと出ていってしまった
当然周囲からは多少の落胆と不満の声は漏れたが、初めからカズミには期待していなかったようでその声はすぐに止んだ

ユウキと何人かの女子はまだ起きて話し込んでいたが、チカはもう眠ろうと布団に入った
それでもなかなか寝付くことが出来なかった

カズミの言葉が不幸な暗示のように、いつまでもチカの心に染み付いて離れなかった


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