桜場コハル作品エロパロスレ・新保管庫

でもただの『ほのぼの』じゃつまらんよね

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──数年前──


いつか終わりになることはわかっていた。
けど、引き際なんてわからなかった。
だからそういう風な結果になったんだし、仕方がないんだ。
でも、もし願いが叶うなら、
あのころに帰りたい。


「ねえ、マコちゃん」
「ど、どうしたんだ吉野」
千秋の家でいつものように遊んだ帰り道、吉野が声をかけた。
まわりには誰もいなくて、二人きりだ。夕陽で顔が影を持ってて怖い。
「マコトくんて知ってるよね」
「も、もちろん。知ってるよ。どうしたんだよいきなり」
吉野は下を向いて立ち止った。つられて一緒に立ち止る。
カラスの声と、心臓の音がやけにうるさい。何だ、何を言いたいんだ。
もしかしてもしかしてマコちゃんの正体がバレてしまったのか。
それじゃあ明日からどうすればいいんだろう。
学校でいじめられるかもしれない。
だって女装してるなんて言いふらせたら絶対悪くいわれる。
そうじゃなきゃおかしい。
それともハルカさんに教えるのだろうか。
マコちゃんは実は男で、ハルカさんの好意につけこんでいる図々しい変態だと。
どちらにしても明日はない。どうすればどうすれば……。
「わたしね、マコトくんのこと……好きなんだ」
顔を上げた吉野は真っ赤だった。あの吉野が、だ。まっかっかで、恥ずかしそうに笑ってる。
なんだか見てるこっちまで……って。
「…………。……は?」
今誰が何だって?
「いつもまっすぐで、明るくてね。すっごく輝いてるの。でもね、彼は別のひとが好きみたいなんだ。仕方ないよね、面と向かって言えないわたしが悪いんだから」
「え、と。うんと……」
こたえに困っていると、吉野はくるり一回転。いつもの表情に戻って、舌を出した。
「ごめんね。でもだれかに打ち明けたかったんだ。内田だと誰かにしゃべっちゃいそうだし……でもマコちゃんなら大丈夫だよね。誰かに話したりしないよね」
「う、うん。話さない」
話してもおもしろくない。変な自慢になってからかわれるだけだ。吉野はうなずいて、
「ありがとう。それにマコちゃん、マコトくんに似てるから、いい練習になったよ」
「そ、そうかな」
ははは、と乾いた笑いをしていると、吉野はまた──さっきほどではないが──顔を赤くして言う。
「中学……高校生になるかもしれないけど、自分に自信が持てるようになったら、告白するんだ。でもマコトくんそのころになったら、いっぱい女の子にもててるかもしれないから、ちょっと心配なんだよね」
薄く笑う吉野に、それはないと否定すると、「ありがとう」と返された。フクザツだ。
「話はこれだけ。ごめんね、引きとめちゃって。それじゃ」
手を振る吉野に振り返して、一人帰り道を歩く。
バレてなくてよかったと思うけど、フクザツだ。
まさかあの吉野にあんなこと言われるなんて。
そりゃ吉野だって可愛いし、悪い気はしないけど……。
「ハルカさん……」
そうだ、ハルカさんがいるんだ。
惚れた以上、それをきっちりさせなきゃこの男気は納得させられない。
吉野のためにも、中途半端じゃだめなんだ。
──がんばろう。




『高一に成長したチアキがヤンデレ化した夢をみたんだ』
──ある男女の成れの果て





コトコトコトコト。コーヒーの沸き立つ音に耳を傾けつつ、吉野はキーボードをたたく。
喫茶店を営むかたわら、あれこれ手を出してようやく軌道にのるようなった。
まだまだ油断はできないが、しばらくは家と食べ物に困ることはないだろう。
腹のあたりで小さな動きを感じ、それをなでる。昔も、今も、愛しい人。
「お腹すいたね。そろそろごはんにしようか」
立ち上がり、キッチンへ向かうと、当然のように彼もついてくる。
いなくなるかもしれないとおびえているのだ。
大丈夫だと何度言い聞かせても、きいてはくれない。
「おいしい?」
ハンバーグを食べていた彼がこちらを見た。それだけで十分。目を見ればわかるから。
「そう。よかった」
食事のときもそばを離れようとしない。肩をくっつけての食事。
悪くはない。むしろ、こうやって肩を寄せ合って一緒にごはんをたべられるだけで、幸せなのだ。
「千秋たちは今頃学校かな」
親の頼みもあって通信制の高校には身を置いているが、やはり全日制とは違う。
制服を着て学生かばん片手に歩く千秋たちを見るとそう思ってしまう。
「マコトくんは学校行きたい?」
すると、びっくりしたのか、目を見開いてぼろぼろ涙をこぼし、吉野に抱きついた。
よしよしと白い手が頭を這う。
「そっか。大丈夫だよ。わたしはずっとそばにいるから」
怖いのだろう。未知の場所に一人ぼっちにされるのが。
それとも“高校生”というワードがダメなのだろうか。
あのときから、彼の心はひどく脆弱で、臆病になってしまった。
それをどうこう言うつもりはない。
言ったところで彼は戻らないのだから。
だから彼を受け入れるだけ。
自分にはそれくらいしかできない。
心が壊れた彼の面倒を見ると彼の両親に誓ったあの日から、後悔はない。
だって彼が好きだから。理由はそれだけで十分だ。
神様が応援してくれたのか、金銭面は不思議となんとかなった。
犠牲になったのは未来といったところか。
「そろそろ寝よっか」
夜は早めに寝て人のいない早朝に散歩をするのが日課だ。
彼もこのときばかりは楽しそうに外を走り回る。
あのころのように。
「おやすみ」
寝るときは彼に抱きしめられるので、いつも彼の心臓の音を聞いて眠っている。
意外と落ち着いて眠れるものだ。それに嬉しい。
「ねえ、マコトくん」
見上げると、無垢な瞳に自分が映っている。まるで宝石をはめこんでいるようだ。
もっとも、これに勝る宝石なんてないだろうけど。
「子供ほしい?」
たまに聞く疑問。いつも彼はあいまいな態度と目でごまかす。
遠慮しているのだろうか。
自分としてはハルカさんがもうけているだけに、うらやましいという思いもあるが、彼女の名前を出すわけにはいかなかった。
彼の白く細長い指が額にあたる。ひんやりした感触を覚えていると、指がおどる。
──ゴメン。
「気にしないで。ただ聞きたかっただけだから」
──ウレシイ。アリガトウ。
あのころの太陽みたいな笑顔。瞬間、あのころの彼が垣間見えた。
──ダイスキ。
「わたしも大好きだよ」
包まれた腕の中から顔を出し、彼の細い首に手を回す。
重なる影。交る熱。嗚呼、今この時のために生きている。


まどろみ、夢を見る。叶わず、取り戻せないそれはまさしく夢。
今日もまた、その幻想に二人は浸る。
あの夕陽の、あの頃の────。
夢の中、少女と少年は笑っていた。


  • 今頃だけどほのぼのってレベルじゃねえぞ! -- 名無しさん (2009-09-08 20:49:34)
  • あーこりゃやべーや^^ -- 名無しさん (2017-08-15 17:26:29)
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