桜場コハル作品エロパロスレ・新保管庫

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匿名ユーザー

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4.

あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。
トイレに駆け込んでから今に至るまでの記憶が完全に途切れている。
洗面台の大きな鏡に映る、もう一人の自分を見る。
目元は真っ赤に晴れていて、くしゃくしゃに潰れている。
どうも私は溜まりに溜まった『何か』が爆発しちゃったようだ。

藤岡くんのコトを想うと、胸がドキドキして苦しくなる。
その苦しさに耐えられず、泣いてしまった。
誰かのために泣いたのは、これが初めてだった。

───何で、爆発しちゃったんだろう。
成長のはじまったばかりの胸に手を当てて、静かに目を閉じる。

───ああ、そうか。

これが、『好き』ってコトなんだ。

やっと分かったよ。

やっと、『この気持ち』が分かったよ。

私、藤岡くんが、

「『好き』なんだ………」

また胸が苦しくなる。
苦しくて苦しくて、涙が出そうになる。
でも、もう泣かない。
藤岡くんにはとっておきの笑顔を見せてやるんだ。
頑張れ私。負けるな私。

パンッと両手で頬を軽く叩いた私は、顔を洗って、髪を整えて、そして、トイレを後にした。



「大丈夫? 長かったけど?」
トイレの前には、藤岡くんが立って待っていた。
「お腹でも壊したの?」と心配そうに私を見る。
(───!!)
まただ。
でも、もう大丈夫。
「ううん、もう大丈夫」
精一杯の笑顔で返してあげた。
「? そ、そっか。良かった」
藤岡くんも笑顔で返してくれた。
この笑顔が、一番好きなんだよね。
「ねぇ、ふ、藤岡くん………」
「なに?」
「外……行こう………」
「うん、行こうか」
私は再び藤岡くんと手を繋いで、屋外のコーナーへ出た。

藤岡くんもドキドキしているのが、手を伝って分かった。
瞬間、私の中でカチンとスイッチの入る音がした。

「待って!」
「え?」
藤岡くんが「どうしたの?」と言ったか言ってないかのタイミングで、私は次の言葉を口から出していた──────。



「藤岡くん! 好きです!!」



突然の一言に、藤岡くんは驚いて目を丸くした。
私も、今何て言ったか分からなかった。
数秒遅れて「好きです」と言ったコトに気付いて、顔が茹で蛸の様に耳まで真っ赤に染まるのを感じた。
胸がドキドキしている。ドキドキどころじゃない。
クルマのエンジンの様にドドドドドドドと細かく脈を打ち、今にも止まりそうだった。

顔を見上げて藤岡くんの顔を見ようとした。で、でも、恥ずかしくて顔が上がらない。
「あっ───────」

急に視界が真っ暗になった。
ドン、と後頭部に鈍い衝撃を受け、それから先は何が起きたか私にも分からなかった。



───ちゃん、───ちゃん、

誰かが私の名前を呼んでいる。

───ちゃん、

だれ?

───ちゃん、

だれなの?

「……──ちゃん」
「ふぇ?」

ぼやけた視界の先に、『誰か』の影が映っていた。

「大丈夫?」
「!!」

私は目を覚ました。
あれ? ここどこ?

私は何故か簡単なベッドの上で横になっていた。
今見えるのは味気ない天井と、藤岡くんの心配そうな顔。
後頭部がじんじんする。
「急に倒れたからびっくりしたよ。スタッフの人頼んでここを開けて貰ったんだ」
ここはスタッフ用の救護室。
特別に開けさせて貰って、藤岡くんが抱きかかえて私をここまで連れてきてくれたらしい。

抱きかかえて?

「あっ──!!」
私は起き上がろうとして、しかし──、
「痛ッ!!」
ズキンと鈍い衝撃が後頭部を遅う。かなり強く打ったようだ。
「無理しない方が良いよ。壁に強くぶつちゃってるから」
そっか。
「ごめんね……」
「いいよ。でも、驚いちゃったな。あんな所で言われるなんて」
そうだ。思い出した。
私、藤岡くんに勢いで告白しちゃったんだ。
そして、頭の中が真っ白になって、そのまま倒れちゃったんだ。
また胸がドキドキしてきた。
「でも、嬉しかったよ」
「え?」
「おれも、キミが……」
藤岡くんの胸のドキドキを、何故か感じた。
そして───────、
「好きだから──」



意識がやっと戻ったところで、私は今どんな体制で横になっているか、やっと気付いた。
私はここに運ばれてから今までずっと、藤岡くんに抱きかかえられてたままだった。
いわゆる「お姫様抱っこ」というヤツだ。
藤岡くんの体温と汗の臭い(暑い中ここまで運んだからだろう)。
そして、胸のドキドキ………。
「ご、ごめん。重いでしょ?」
私は藤岡くんに悪いと思って、起き上がろうとする。でも、
「ううん。平気平気」
藤岡くんは話してくれない。
「もうしばらく、こ、このままでいいかな?」
藤岡くんのドキドキが強くなっていく。私もまた、ドキドキが強くなっていく。
「───いいよ」
私と藤岡くんは、しばらくの間このままで居た。

しばらくして、私は改めて、もう一度、彼に告白しようと決めた。
「あ、あの、どうか聞いて下さい!」
私はじんじん痛む頭を押さえながら、簡易ベッドの上で身体をよじる。
藤岡くんも同じ様にして向き合う。

頑張れ私。ダメかもしれないけれど言ってしまえ!!
すぅっと静かに吸った息を全て吐き出すように、私は、『この気持ち』を全部彼にぶつけた。

「私、藤岡くんのコトが、好きです!!」

胸のドキドキが再び急加速した。また倒れてしまいそうだ。
でも、もう大丈夫。頑張れ私。逃げるな私!

「あ、あの!!」

「えっ?」

「良かったら!! その! あの……」
負けるな私!!

「私と、"お付き合い"してもらえませんか!!」
言えた! やっと言えた!! 一方的だったけど、言えた!!
思わず涙がこぼれそうになる。
でもまだ早い。まだ答えを聞いていない。
果たして、私の『この気持ち』は、彼に、藤岡くんに伝わったのだろうか。



沈黙が数十秒続いた後、藤岡くんが私の名前を呼ぶ。

「有り難う」

ああ、やっぱりダメか……。
この返事は「ダメです」という意味だ。ところが……、

「おれも、キミが、好きです」

その『好きです』という言葉には、藤岡くんの優しい想いがたくさん詰まっていた。
そして───。

「こんなおれで良ければ、どうか付き合って下さい」

「!!」

ダメだと思った。「有り難う」の時点でダメだと思った。
でも、結果は違った。結果はOKだった。
「ふ、ふじ、藤岡……くん…………うぐっ」
何故だろう、涙を必死に止めようとしても止まらない。
もう泣かないって決めたのに!!
「藤岡くん!!」
私は思わず藤岡くんに抱きついてしまった。
けれども藤岡くんは私を突き放したりはせず、その腕で優しく抱きしめてくれた。
こういうのが、「嬉し涙」って言うんだね。
「お、おれ、悪いコト、言っちゃったかな?」
「ぐすっ、うぐっ………ううん、違うの。嬉しいの。藤岡くんに『好き』と言われて、凄く嬉しいの」
「おれも、凄く嬉しいよ。でも、一つだけお願いがあるんだ」
私は彼の胸に顔を突っ伏したまま、涙を流し続ける。涙が止まって欲しいのに、止まらない。
「笑顔を、見せてくれるかな。とっておきのやつ」
「えっ……」
私は涙でくしゃくしゃのまま、顔を上げた。

「笑顔を、おれに見せてくれるかな? ひまわりの様な、優しくて、明るい笑顔を」
「ぐすっ…………、うん………」
私はハンドタオルを取り出し、くしゃくしゃの顔を拭った。
大丈夫。もう大丈夫。

「藤岡くん! 大好き!!」
大好きな藤岡くんにとびきりの笑顔を贈った。
いつものニコニコ笑顔ではない、本当の『笑顔』を。
「おれも、好きだよ」



予定では夕方まで水族館の中を全部見て、最後にイルカのショーを見る予定だった。
けれども私がやらかした事件のせいで昼過ぎまで救護室で休むコトになり、この日最後のショーが始まる前に私たちは帰ることになった。


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  • 吉野まで藤岡に惚れかよ!チッ -- 名無しさん (2009-06-09 20:52:01)
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  • ええ話やな~。感動したっ!! -- 名無し (2010-08-03 13:34:31)
  • これが純愛という奴か・・・。 可愛すぎるぞ二人ともwww。 -- 名無しさん (2010-08-03 23:16:26)
  • なんか10年ぶりくらいに見たくなった。 -- 名無しさん (2019-07-17 22:02:52)
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