桜場コハル作品エロパロスレ・新保管庫

こぶ付きデート

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coharu

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「いいのか? それで本当に」
「うん、別にいいけど…って行きたいって言ったのチアキの方だろ?」
「それはそうだが…」
 夕方、いつものように学校から帰ってきたカナの言葉を聞いて、チアキは思
わずそう言った。
 この姉はどこまで鈍いのか? ちょっとは気づいているのか? それとも何
かの当てつけなのか? とにかくチアキは自分が言い出した手前もあり、怒る
ことも謝ることもできない、変な状態におかれていた。

 昨日の夜、カナから藤岡にデートに誘われた話を聞いたのだ。場所は近場の
たなしえん。だが、デートと言ってもカナにはその自覚がないというか、藤岡
が「チケットを2枚もらちゃったから」という誘いの文句をそのまま文字通り
に受け止めてしまっているらしい。
「あまっているなら、誰かが行かないともったいないもんね」
 実に軽い受け止め方だ。


 昨日その遊園地行きの話を聞いたときには、チアキは姉のそんな浅い考え方
には気づいておらず、つい「面白そうだな、私も行きたいな」とつぶやいてし
まったのだ。
 (まさかカナが本気で私も行きたいと言っている、なんて藤岡に伝えるとは
思っていなかったよ…。)
「藤岡もチアキが一緒に行った方が楽しいって言ってたよ」カナが言う。
(そんなわけないじゃないか…こぶ付きデートだよ、まるで私が空気が読めな
い奴みたいだよ、それじゃ)
 いつものように藤岡が家に遊びに来るのなら、自分が一緒に話に加わったり
するのは別にいいだろうが、今回は誘われているのはカナだけだったのである。
いくらなんでも私を連れて行きたいと思っているわけがない。



「ほら、これチケット」
 カナの手には藤岡から貰ったチケットの他に、「こども」と書かれたたなし
えんのチケットが握られている。
「え、も…もうチケットも買ったのか?」
「うん。学校の帰りに、コンビニで」
「あー、もう、仕方ないな」
「仕方ないって…ほんとに行きたいのか、チアキ?」
「いや、ありがとう、行きたいのは確かだよ。というか、悪かったよ。今回は
皮肉じゃなくて本心から。いたらない妹としてお前に謝るよ」
「はあ?」
 いぶかしげな表情をしているカナからチケットを受け取り、部屋に引っ込っ
こんだ。

 今日は金曜である。遊園地行きは日曜だからもう間に一日しかない。いった
いどういう顔をしていけばいいのだろうか。
(まずハルカ姉さまにことわっておかなけりゃいけないな…)
 これもなんだか気が進まなかった。ハルカ姉さまはカナとは違うから、当然
藤岡の意図に気づいているだろう。私が一緒に行きたいとカナに言った現場に
いたら、やんわりとそうはさせないようにするはずだ。
 といって、私が連れて行って欲しいと言い出したのではない、というのも嘘
になってしまうし、そんな卑怯なことはできない。このままじゃ、ハルカ姉さ
まにも鈍感な妹だと思われてしまう。
 やはりカナに正直に話して、ついていかないのが一番いいのだろうか?
 あれこれ考えていると、宿題もさっぱり進まない。



 結局宿題は夕食後にやることにして、カナが夕飯を作るのを手伝うことにした。
「珍しいな、チアキから手伝ってくれるなんて言うなんて。どういう風の吹き
回しだ?」
「心配だからな。カレーしかまともに作れないお前の料理が」
「なに言ってんの? 今日のビーフシチューの成功で私の料理のバリエーショ
ンを大きく広げてみせるよ」
「大して広がらないよ、仮にうまくいったとしてもさ。あ、ジャガイモはもっ
と大きく切った方が食感が良くて好きだぞ。にんじんは入れなくていいって…
入れるならもっと細かくきざめ!」
「いちいちうるさい奴だなあ」
(やっぱり言い出すなら今しかない)
 まだ迷いがあったが、思い切って切り出した。
「なあ、カナ、せっかくチケットまで買ってもらっておいてなんだけど、やっ
ぱり私は行きたくないんだ」
「へ? 何でだよ。乗り物とか嫌いか?」
「まあ、ジェットコースターはそんなに好きじゃないけど、あそこにはそんな
に怖いのはないし…ってそうじゃなくてさ」
(なんだか上手く言えないな…)
「藤岡はきっとカナと二人で行きたいと思うんだ」
「は?」
「だってそうだろ、デートに誘うってそういうことだろ」
「うーん、そうなんだろうけどねえ」
カナは少し考え込むように言った。
(なんだ、分かってるじゃないか。なら私に気を使う必要なんてないのに…)
「どうもねえ、なんか間が持たない気がしてねえ。あいつと二人きりだとさ」
「え?」
「私もチアキの助けがちょっと欲しいんだな」
(ず、ずいぶん奥手だな…)。
「だからさ、今回はチアキも一緒に行ってくれよ。お願いだから」
「うん、まあ、そういうことなら」
 本心なのか、私を心配させまいとする嘘なのか? カナの本心は分からないけ
れど、なんかどっちも含まれているような気がした。

「それにさあ、藤岡はチアキも一緒の方が本当に楽しいと思ってるよ」
「なんで分かるんだよ?」
「別に…理由はないけど、私は藤岡の気持ちは分かるんだ」
「なんだよ、それは!」
 これはのろけ話って奴なのか?
「私もそっちの方が面白そうだし、行こうよ」
「うん」
心では楽しみでしょうがないことに気づきながらも、うわべは平静を装って
チアキは答えた。
ビーフシチューの良い香りがただよい始めた頃、ハルカがドアを開ける音が
聞こえてきた。

おわり


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