桜場コハル作品エロパロスレ・新保管庫

取り合い後のハルカ・ナツキ

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coharu

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「最近トウマの帰りが遅い」
「同じようなこと前にも言っていなかったか」
「そうか?まあそれはさておき、これはゆゆしき事態だ」
ナツキは相変わらずの仏頂面を崩さず、茶をすする。帰りが遅いっていっても7時を越えることはないのだ。
塾に行ってるとこならもっと遅いだろうし、そんなに心配することもないだろうというのが、彼の結論だった。
「そういえばアキラも帰って来てないな」
「あいつはいいんだ」
「いいのか」
茶がなくなったことに気づき、ナツキは台所に立つ。そこで乾燥棚に置いてある二つの弁当箱を見て、わずかに頬を緩ませた。
「む、そういえば最近お前も帰りが遅いな。逆に朝は早いようだが」
「……みんな色々あるんだろうよ」
「ふむ、そうか。しかし色々とは気になるな。お前の場合はそこの弁当箱にワケがありそうなものだが」
「……なんでもねえよ」
「声が若干震えているが……まあいい、重要なのはそこではない。問題はトウマの身辺だ」
「男でも作ったんじゃねえのか」
やや投げやりに放つ。自分を話題からそらそうとした結果、微妙に悪化したことをナツキは言ってから気づき、冷や汗を一筋流した。
「確かに近頃やけに色っぽくなったような……いやしかしそれは確定したとは……」
ぶつぶつ呟き考え込み始めた長兄を尻目に、これ幸いと二男は自室に引っ込んだ。蒲団を敷き、さっさと潜り込む。明日は一層早く起きなければならない。
(明日は俺の番だからな……)
破顔するのを抑えきれず、闇の中ナツキは人知れず笑う。幸福すぎて仕方がなかった。ほかのことがどうでもよくなってくる。
そう、数日前のあの日から――――。


(さて、帰るか)
HRも終わり、帰り支度をするナツキ。バレー部員なので、練習に参加するべきなのだが、何分炊事は自分の担当なので早く帰らなければならないのだ。
いつも通りの仏頂面を引っさげて校内を歩いていると、目の前に見知った姿が現れた。
「南先輩……」
言われて、南春香はゆっくりと振り返る。その顔はやや青白く、辛そうに見えた。
「あら、ナツキくんじゃない」
「ウッス」
「ふふ、相変わらずね。元気そうで何より」
「南先輩は……あんまり元気そうじゃないっすね」
「そうね。疲れてるのかしら。最近だるくって……」
くらっ。ハルカの体が揺らぐ。考えるより先に腕が伸びる。ナツキの両腕がすんでのところで彼女を抱き寄せることに成功した。
「大丈夫っすか!?」
「ごめんなさい……。やっぱり、疲れてるみたい」
綺麗な長髪がわずかに動き、全体がぬくもりで包まれていく。
「あんまり無理しない方がいいっすよ。少し休んでもいいと思います」
抱きしめた頭を、優しくなでる。昔妹に同じようなことをしたような気がした。
しばらくそうしているうちに、自分が置かれている状況を悟り、冷や汗をダラダラ流し始める。
マズイ、これは非常にマズイ。
相手は三年の先輩でしかも二度ほど不埒な行いをしてしまっている。仏の顔も三度まで。
いくら慈愛に満ち溢れる聖母でも激怒するであろう。見物人がいないのが不幸中の幸いか。
「ねえ」
「いっ!?す、すんませんしたっ!」
高速で離れ、高速で頭を下げ、高速で休めの体勢。いつかの繰り返しだ。
鉄拳でも張り手でも甘んじて受けよう。
「どうぞ、煮るなり焼くなり好きにしてください!」
「好きにしていいの?」
やけに熱っぽい顔をしたハルカが問う。それに肯定の意を示す彼を見て彼女は、
「じゃあもう少しこのまま」
ナツキに体を預けた。どきまぎした彼は、そのオーダーに従うしかなかった。
結局、人目につくということでナツキが震えた声色で移動を懇願し、近くの公園に向かうことになる。
(たぶん、この人は疲れてたんだな)
ベンチに腰かけた彼の膝にはハルカの寝顔が浮かんでいる。すぅすぅ聞こえる寝息が、ヘンな安心と緊張をもたらしてくれる。
――大変なんだろうな。
切実にそう思う。自分も同じような身の上だが、たいして役に立たないとはいえ兄がいる。
上にだれかいるだけで、不思議と安心できるものだ。その反面、一番上というのは気苦労が絶えないのだろう。
力になってやりたいと思うのは間違いなのだろうか。自分だって家事全般はこなせる。相談や手伝いだって……。
(無理だろうな)
彼女はそういう人間だ。何でもできるから、自分で何でも抱え込んでしまう。それは性分だから仕方がないのかもしれない。
それでも何かしてあげたい気にさせるのも、やはり彼女の性分なのであろう。
「そろそろ寒くなってきたな」
辺りを見回せば日は沈み、暗くなってきていた。時計を見れば、6時を回っている。彼女はもちろん、自分もそろそろ家に帰らなければならない。
しかし――。
(なんとも起こしにくい)
気持良さそうに眠っている彼女を起こすのは大変気がひけた。起こして寝起きが悪かったらどうしよう。
それに休めといったのは自分だし、それを反故にするのはよくないだろう。
かといって起こさなければ帰宅が遅れてあちらの南家にご迷惑をかけてしまうし、第一こんな寒空の下で寝かせていたら風邪をひかせてしまって逆効果なのではないだろうか。
……これならどうだろうか。
苦悩の末、ナツキは自分の上着をハルカに掛けることで落ち着いた。自分は寒いがそんなことはどうでもいいといわんばかりの行い。
その性分が彼女と似ていることに本人は気付いているのかいないのか。


誰かの声が聞こえて、ハルカは徐々に覚醒する。次第に感じる温かさに覚えがなく、まだ夢の中なのではと疑うが、寒風が顔をかすめたことにより現実であると知る。
「あれ……」
「ああ、起きたんすか」
上から聞こえるくしゃみに目を向けると、顔を赤くしたナツキがいた。
「ナツキくん!? どうしてこんな……」
起き上ったとき、自分に重なった何かが落ちる。拾い上げると、それは男物のコートだった。
「寒いですからね、風邪ひくと思って」
「そんなこと!」
しなくていいのに、とまで言い切らず、唇をかむ。
自分に気をつかってくれたのだ、それを露骨に否定することなんてできない。
「少しは先輩の役に立てましたかね……」
コートを着せようと手をつかむと、その手は氷のように冷たく、見るからにかじかんでいた。
「こんなに……」
「いいんすよ、これくらい」
「よくない!」
二人分の荷物を持ち、手を引いて強引に歩かせる。
早く風呂なり暖房なりで温めなければ――そんな気持ちがハルカの心を占有し、異性と手をつないでいることには頓着しなかった。
家には誰もおらず、暗闇が広がっていた。そろそろ8時なのだから、二人ともいるはずなのに。
(それは後で考えましょ)
優先すべきはナツキである、とハルカは自身に言い聞かせ、暖房をつけ、風呂に湯を入れる。
「もう少しでお湯がたまるから、そしたら入って」
「ええと……」
困惑した彼が見たのは自分の手であった。
真っ赤なその手は小刻みに震えており、衣服を脱ぐのは困難であろうことは容易に想像できる。
そのときハルカは思いついた案に赤面し、動揺する。
しかし自分のせいであるとして覚悟を決め、告げた。
「わ、わたしが脱がすわね!?」
見事に裏返った声であった。


上半身は何とかなった。問題はズボンとその下である。
「あの、やっぱり自分で……」
「い、いいのよ! ナツキくんはわたしのためにこうなったんだし……」
首を可動範囲ギリギリまで曲げて下ろしにかかるハルカ。持前の器用さをいかしてなんとか成功するが……。
むにゅ。
「ひっ――ヒィィィイイ!?」
勢いよく壁にぶつかるまで後退し、衝突後も心中は恐慌状態となった。触った、触ってしまった、触っちゃった。
「すんません……」
「あ……ご、ごめんなさい。驚いたりして……見たことないものだか――」
謝ろうとしたのがマズかった。正面を向いたハルカの目には、その〝見たことないもの〟が映り、
「いやあああああああ」
彼女は盛大な悲鳴をあげることになった。
「…………」
「ほんとうに、ほんとうにごめんなさい」
「いいんすよ、気にしてませんから」
十分後、ガラス戸に背を向ける格好で、ハルカは浴室のナツキと会話できるまでに回復した。
「……やっぱだめっすね、俺」
「?」
「先輩の役に立とうとしても、逆に迷惑かけただけでした」
「…………」
「俺、多分先輩のこと……好きっす」
「そう……」
その言葉に、なぜかハルカは今まで告白された中では感じなかったものを感じ取った。
自分のために身を犠牲にした彼を思い出すと、胸騒ぎのような感覚がわいてくる。
「ねえ、名前で呼んで」
「…………。ハルカ――さん」
長い沈黙のはてに、浴室ならではのよく響く声が聞こえた。それだけで、彼女には十分だった。
「うん、わたしも好きみたい、ナツキのこと」
「光栄っす」
「じゃあ恋人らしくお弁当でも作ろうかな」
「あ、俺も作ります。料理は得意だから」
「うーん、じゃあ交代制にしようか」
「そうっすね。一人も」
「『一人も二人も作る手間は変わらない』?」
「ウッス」
なるほど、似た者どうしか。なら好きになってもしょうがないよね。ハルカは胸中で幸福感が広がっていくのを感じた。
それはとても甘いもの。


「さて、藤岡の親がいないということで藤岡の家に来たワケだが……」
チアキは眠たそうな眼を少々険しくして、
「何でお前がいるんだよ」
「そりゃあれだよ、妹が心配で心配で」
カナはさも当然とばかりにこたえ、トウマを見遣る。
「第一、こんなちびっこ二人で番長の家に行くなんて危ないったらありゃしない」
「あ、その設定まだあるんだ」
複雑そうな顔の藤岡はこの状況を喜ぶべきかどうか悩んでいた。
意中の相手が自分の家に来るという願ってもないシチュエーション。
しかし、奇行が目立つ彼女を入れてはたして家と自分は無事で済むのかという不安が脳裏をよぎる。
(それになんだか嫌な予感がする)
たいてい、こういう予感はよく当たるものである。
「藤岡」
トウマが耳元に唇を寄せ、
「カナのこと好きなんだろ?」
「う、うん。まあね」
バレていないと思っていた藤岡はある程度の衝撃を受けたが、それは置いといた。
「いっそのこと押し倒せば?」
「なっ……!」
「だってカナ全然気づく気配ないし、それくらいのことしないと進展しないんじゃないか?」
「それは……」
妹と言い争っている少女に目を向ける。
たしかに、これまで色々アプローチしてきたが効果という効果は得られなかった。
ならいっそのこと、それくらい強烈なことでもしないと一生気づいてもらえないのでは?
でもそれで嫌われたら元も子もない。
「オレはチアキと違ってお前の意志を尊重するからな」
チアキ曰く、『あんなバカ野郎に負けるなんて納得できん』とのこと。
そのため、彼女のカナへの冷遇っぷりは、さらに磨きがかかっていた。
それに伴い、藤岡の恋心もいま一つ理解してもらえないでいる。
「まあ、だからその……ずっと一緒にいたいというか、そばにおいてほしいというか……」
顔を赤くしてあさっての方向を見るトウマを撫でていると、玄関のベルが鳴った。
出なければ、と動く藤岡よりもはやく、カナが出迎えにいった。
「まったく。あんなののどこがいいんだ?」
チアキの質問に、藤岡は若干照れながら、
「ああいう元気なところかな」
「バカはエネルギー配分を知らないだけだ」


勇気を振り絞り、呼び鈴を鳴らす。その音より、自分の心臓は大きな音を立てている気がする。
服はお気に入りのもの、メイクはばっちり、シミュレーションは100回はやった。
(完璧ね)
そう、完璧。何もかもが徹底されている。
彼が扉を開ける。さあここで用意したセリフを言う。
「藤岡くん、突然来て迷惑だったかな。でもどうしても伝えたいことがあって……」
「おう、リコどうした」
そこにいたのは想い人ではなく、恋敵の南夏奈であった。不思議そうな顔をするカナの後方から、藤岡と小さな女の子二人がやってくる。
(なん……だと……)
親がいないという情報を入手した彼女は千載一遇のチャンスと入念に服を選び計画を立て、
ありったけの勇気を振り絞ってここまできたというのに、相手はすでに侵入し、あまつさえこの城(リコ視点)を我が物としているとは……。
(いいえ、ここで挫けてはダメよ。物語的には不利な状況こそが成功フラグ、すなわち王道。
つまりこの展開はのちに愛する藤岡くんの伴侶となる私への試練)
「ま、上がんなよ」
「ええ、お邪魔します」
行儀よく挨拶し、中に踏み入るリコ。ここで藤岡に許可を取らないのは断られる可能性を考慮してのこと。
もはや執念と呼ぶべき直感による行動である。
(南夏奈……あなたには負けないわ)
ねっとりした炎を身に宿し、見当違いの敵意をカナにぶつけるリコであった。


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